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ゴールまで

俺は、持てる力をすべて使って走った。


前を走る赤組の選手は、ほんの数メートル先にいる。


そして後ろからは、別の選手が迫ってくる足音が聞こえていた。


ここで速度を落とすわけにはいかない。


「頑張れ、大樹!」


観客席から松の声が聞こえた。


「追いつけるぞ!」


悠真は、さらに大きな声で叫んでいる。


「負けたら帰ってくるなー!」


「それは応援になってないだろ!」


恒一がすぐに突っ込んだ。


こんな状況なのに、俺は思わず笑いそうになった。


けれど――。


その時、もう一度あの声が聞こえた。


「大樹!」


舞夜。


振り返らなくても、彼女が応援してくれていることが分かった。


俺は歯を食いしばる。


目の前を走っていた選手の速度が、少しずつ落ち始めた。


少しずつ――。


距離が縮まっていく。


五メートル。


三メートル。


一メートル。


俺はついに、相手の隣まで追いついた。


ゴールラインが、どんどん近づいてくる。


観客席からの歓声も、さらに大きくなった。


「行けー!」


「あと少し!」


「諦めるな!」


最後の数メートル。


俺たちは、ほとんど同じ速度で走っていた。


そして――。


ゴールラインを越えた。


俺は数歩先まで走ってから立ち止まり、必死に息を整えた。


「……どっちが勝った?」


息を切らしながら尋ねる。


先生の一人が、別の審判と一緒にゴールの様子を確認していた。


数秒間――。


誰も何も言わない。


そして、ついに先生が旗を上げた。


「第三チーム!」


その瞬間、トラックの周囲から歓声が爆発した。


「勝った!」


佐藤が両手を上げる。


小林も俺のところへ走ってきた。


「やったな!」


「……本当にギリギリだったけどな」


俺は息を整えながら答える。


「でも、勝っただろ」


その数秒後。


舞夜もこちらへ駆けてきた。


「大樹!」


俺が反応するより先に――。


舞夜が俺の両手を握った。


「勝ちました!」


「えっ……あ、ああ」


舞夜は、嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。


けれど――。


すぐに、自分がまだ俺の手を握っていることに気づいたらしい。


舞夜の視線が、ゆっくりと下へ落ちる。


俺の視線も同じように、自分たちの手へ向かった。


一瞬だけ。


俺たちは何も言わなかった。


そして舞夜は、慌てて手を離した。


「ご、ごめんなさい!」


「いや、別に……」


俺も反射的に答える。


二人とも、同時に視線を逸らした。


その時――。


「おお……」


背後から声が聞こえた。


……嫌な予感がする。


頼む。


今だけは、あいつじゃありませんように。


俺はゆっくり振り返った。


そこにいたのは――。


やっぱり結衣だった。


しかも、ものすごく嬉しそうな笑顔を浮かべている。


「いやぁ……。

すごくいい場面だったね」


「何も言うな」


俺は即座に釘を刺す。


「私?

何もしてないよ?」


舞夜はまだ顔を真っ赤にしている。


「ただ、勝てて嬉しかっただけです」


舞夜が必死に説明する。


「そうなんだ」


結衣は頷く。


「それなら、全部説明がつくね」


「結衣!」


その時、麻美が後ろから現れて、結衣の腕を掴んだ。


「五分くらい二人を放っておきなさい」


「でも、これは大事なことだよ」


「大事じゃない」


美子もやってくる。


「勝ったの?」


「はい!」


舞夜が素早く答えた。


話題を変えようとしているのが、俺にも分かった。


「大樹が最後に追い抜いたんです」


「すごいじゃない」


美子が言う。


すると結衣が腕を組んだ。


「でも、私たちは知ってるけどね」


「何を?」


俺が尋ねる。


「本当の原動力」


悠真が、ちょうどこちらへやって来た。


「何のこと?」


結衣は舞夜を見る。


「舞夜だよ」


「はぁ!?」


「違う!」


俺は即座に否定した。


全員が笑い出す。


舞夜は両手で顔を隠した。


「もう……消えてしまいたいです……」


「大げさだって」


俺が言う。


「大樹は、私じゃないからそんなこと言えるんです」


「俺だって、結衣にからかわれてるだろ」


「……それはそうですね」


俺たちは顔を見合わせた。


そして――。


結局、二人で笑ってしまった。


その後、先生たちがリレーの表彰式を行うため、参加者を呼び集めた。


俺たちのチームには、小さな記念メダルが贈られた。


特別に価値のあるものではない。


けれど――。


俺はそのメダルを見つめながら、なぜかそれ以上の意味があるように感じていた。


「大樹」


隣には舞夜が立っている。


彼女も自分のメダルを眺めていた。


「ん?」


「ありがとうございます」


「何で?」


「最後まで走ってくれて」


俺は微笑んだ。


「舞夜が、俺を信じてるって言ってくれただろ」


舞夜が顔を上げる。


「それが、大樹をもっと速く走らせたんですか?」


その質問に、俺は少し驚いた。


「まあ……」


俺は頬を軽く掻く。


「少しだけな」


舞夜はしばらく黙っていた。


そして――。


優しく微笑んだ。


「それなら……。

言ってよかったです」


数秒間。


俺たちは、それ以上何も言わなかった。


すると――。


少し離れた場所から、結衣の叫び声が響いた。


「二人とも! 五分くらい恋愛ドラマみたいなことするのやめてー!」


「「何もしてない!」」


俺たちは同時に叫んだ。


再び、トラックいっぱいに笑い声が響き渡る。


俺は小さなメダルをポケットへしまった。


そして思う。


この体育祭は――。


きっと、俺が想像していた以上に、忘れられない一日になるのだろう。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


大樹と舞夜の距離が、また少しだけ近づいた体育祭。


二人がこれからどんな思い出を作っていくのか――。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

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