宝探しの後で
宝探しは終わった。
俺たちのチームは集合地点へ戻り、他の生徒たちはそのまま次の活動を続けていた。
舞夜は、見つけた写真をまだ大切そうに持っている。
時々その写真を眺めては、嬉しそうに笑っていた。
「本当にその写真、気に入ったんだな」
俺が言う。
「はい。
だって、みんなすごい顔をしてますから」
「それが面白いんだろ」
小林が近づいてくる。
「そういえば、その写真はどうする?」
「もらってもいいんじゃないですか?」
舞夜が答える。
「体育祭の思い出として」
佐藤も頷いた。
「俺は賛成」
そう言って、宝探しのカードをしまう。
そして、グラウンドへ視線を向けた。
「でも、体育祭はまだまだ終わらないぞ」
俺たちも同じ方向を見る。
グラウンドの中央では、先生たちが次の競技の準備を始めていた。
「次は何だ?」
俺が尋ねる。
小林がプログラムを確認する。
「チーム対抗リレーだ」
俺は小さく呟いた。
「じゃあ、そろそろ準備したほうがいいな」
舞夜が顔を上げる。
「緊張していますか?」
「少しな」
「そうは見えませんけど」
「平静を装ってるんだよ」
舞夜が微笑む。
「それなら、ちゃんと成功していますね」
俺たちは待機場所へ向かった。
次第に各チームがトラックの周りに集まり始める。
先生がマイクを持った。
「次の競技は、チーム対抗リレーです。
各チーム四人で走ってもらいます」
そして続ける。
「走る順番は、それぞれのチームで決めてください」
小林が俺たちを見る。
「誰から行く?」
佐藤が手を挙げた。
「俺が最初でいい」
「じゃあ、俺が二番」
小林が言う。
舞夜が俺を見る。
「それなら、私は三番で」
「よし。
じゃあ、最後は俺だな」
「大丈夫ですか?」
舞夜が尋ねる。
「ああ。
まあ、失敗しないように頑張るよ」
舞夜は首を横に振った。
「大丈夫です。
大樹なら、失敗なんてしません」
「どうしてそんなに自信があるんだ?」
舞夜は微笑んだ。
「大樹のことを、信じていますから」
胸の奥が、少しだけ締めつけられるような感覚がした。
こういう言葉を聞くのは、初めてじゃない。
でも、京都であんなことがあった後では――。
その言葉の意味が、以前とは違って感じられた。
「じゃあ、期待を裏切らないように頑張るよ」
「私のために頑張らなくても大丈夫です」
舞夜は優しく笑う。
「いつも通り、走ってください」
俺は頷いた。
「ああ。
分かった」
その時、トラックの反対側から結衣が走ってきた。
「大樹!」
「今度は何だ?」
「頑張ってね!」
「ありがとう」
結衣は少しだけ近づいて、声を落とす。
「でも……」
「何だよ?」
「舞夜に『信じてる』って言われた後で負けたら、かなり面白いよね」
「それは応援じゃないだろ!」
結衣が笑い出した。
舞夜もつられて笑う。
「結衣のことは気にしないでください」
舞夜が言った。
「集中してください」
「分かってるよ」
「頑張ってください」
「……ああ」
参加者たちが、それぞれのスタート位置へ移動し始める。
佐藤がバトンを握った。
観客席には各クラスの生徒たちが集まり、大きな歓声と拍手が響いている。
先生が旗を掲げた。
「位置について!」
佐藤が前へ身を乗り出す。
「よーい!」
そして――。
旗が振り下ろされた。
「スタート!」
一斉に選手たちが走り出した。
佐藤は良いペースを維持している。
しばらくして、佐藤から小林へバトンが渡った。
小林は一人の選手を追い抜く。
観客席から歓声が上がった。
「行けー!」
「もっと速く!」
そして――。
舞夜の番が来た。
小林がバトンを渡す。
舞夜は勢いよく走り出した。
風を受けて、長い髪が大きく揺れている。
俺はバトンを受け取るゾーンで待っていた。
チーム同士の距離は、ほとんどない。
「舞夜!」
俺が叫ぶ。
舞夜がほんの少しだけ振り返る。
一瞬だけ――。
俺たちの視線が重なった。
そして、舞夜はさらに速度を上げた。
「大樹!」
俺は手を伸ばす。
次の瞬間――。
バトンが舞夜の手から、俺の手へ渡った。
俺は全力で走り出した。
観客席の声が遠くなっていく。
聞こえるのは、自分の足音だけ。
――いや。
もう一つだけ、聞こえていた。
背後から届く、舞夜の声。
「頑張って、大樹!」
俺はバトンを強く握りしめた。
勝てるかどうかなんて、分からない。
それでも、なぜか――。
このゴールラインだけは、持てる力をすべて出し切って駆け抜けたかった。
チームのためだけじゃない。
舞夜に――。
自分を信じてよかったと思ってもらいたかったからだ。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
体育祭で、大樹と舞夜の距離は少しずつ変わり始めています。
果たしてリレーの結果は――?
そして、二人を待っている次の出来事とは?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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