笑顔の手掛かり
俺たちのチームは、地図の指示に従いながら校庭を歩き回っていた。
封筒は、いたるところに隠されている。
ベンチの下。
練習用のコーンのそば。
さらには、体育祭のポスターの裏にまで。
けれど――。
俺たちが探しているものは、なかなか見つからなかった。
「この辺りは、もう全部見たと思うけど」
佐藤が言う。
小林が地図を確認した。
「これによると、次の場所は観客席の近くみたいだ」
「じゃあ、行きましょう」
舞夜が先頭に立って歩き始める。
俺も他の二人と一緒についていく。
その間、舞夜は周囲を注意深く見ながら歩いていた。
「でも……私が見つけるんですよね?」
舞夜が尋ねる。
「ああ」
俺が答える。
「だったら、みんなで探しちゃ駄目なんじゃないですか?」
小林と佐藤が顔を見合わせた。
「……確かに」
「じゃあ、ここからは舞夜に任せよう」
「本当に?」
俺が尋ねる。
「うん。
指令には、彼女自身が見つけるって書いてあるからな」
二人が少し離れる。
俺も同じように距離を取った。
舞夜は俺たちを見て、小さく笑った。
「なんだか、すごいプレッシャーですね」
「俺は舞夜を信じてる」
そう言うと、舞夜は一瞬だけ俺を見る。
「……本当ですか?」
「ああ。
きっと見つけられるよ」
舞夜の顔に、小さな笑みが浮かんだ。
「……じゃあ、頑張ってみます」
そのまま俺たちは観客席へ向かった。
そこには、競技の合間に休んでいる生徒たちが何人も座っていた。
舞夜はゆっくりと座席の間を歩いていく。
いくつかの座席の下を確認する。
――何もない。
柵の近くも調べる。
――やはり何もない。
「別の場所じゃないのか?」
佐藤が言った。
「もう少し待とう」
俺は答えた。
舞夜はそのまま探し続ける。
そして――。
一つの柱のそばに置かれていた、小さな飾り箱の前で立ち止まった。
「……あれ?」
舞夜がしゃがみ込む。
箱の後ろに――。
白い封筒が隠されていた。
「あっ!」
舞夜が声を上げる。
「見つけました!」
俺たちはすぐに駆け寄った。
舞夜が封筒を手に取り、中を開く。
中には小さなカードが一枚入っていた。
『このメッセージを見つけたあなたは、探す力を証明しました。
次は、あなたを笑顔にしてくれるものを見つけてください』
舞夜は、その文章を二度読み返した。
「私を笑顔にしてくれるもの……?」
「また何かを探さないといけないみたいだな」
小林が言う。
「もしかしたら、何かの記念品かもしれない」
佐藤が近くのテーブルを指差した。
そこには、体育祭の景品として用意された小さな賞品がいくつか並べられている。
けれど、舞夜は首を横に振った。
「違うと思います」
もう一度カードを見る。
「『私を笑顔にしてくれるもの』を見つけてください、と書いてあります」
舞夜は数秒間、考え込んだ。
そして――。
顔を上げる。
「……探すものが分かった気がします」
「何だ?」
俺が尋ねる。
舞夜は校庭の反対側を指差した。
そこには、体育祭の間に生徒たちがメッセージや写真を残せる、小さなブースがあった。
「……あそこです」
俺たちはその場所へ向かった。
テーブルの上には、午前中の競技中に撮影された写真が何枚も並べられていた。
生徒たちは好きな写真を一枚選び、その裏にメッセージを書くことができるらしい。
舞夜は写真を一枚ずつ確認していく。
一枚。
二枚。
三枚。
そして――。
突然、手を止めた。
「これです」
舞夜が写真を一枚取り出す。
それは、朝の準備運動中に撮影された集合写真だった。
俺たち全員が、変なポーズや表情をしている。
悠真は、やけに真剣な顔をしていた。
恒一は笑いをこらえようとしている。
松は全員の後ろに映っている。
そして結衣は、両手を高く上げていた。
写真を見た瞬間――。
舞夜が笑い始めた。
「ふふっ……」
「やっぱり、これなら笑顔になります」
小林が活動用のカードを写真のそばへ持っていく。
「じゃあ……これで終わりか?」
その時、一人の先生が近づいてきた。
「その通り」
先生は写真を確認する。
「チームの指令達成だ」
「やった!」
俺たちは喜んだ。
舞夜も満面の笑みを浮かべている。
その笑顔を見ていると――。
俺まで自然と笑ってしまった。
「よくやったな」
俺が言う。
舞夜は写真を手に持ったまま微笑んだ。
「これ、もらっていきますね」
「かなり恥ずかしい写真じゃないか?」
俺が尋ねる。
「だからこそです」
舞夜は写真を大切そうに見つめる。
「この日を、ちゃんと覚えておきたいので」
写真をしまおうとした、その時――。
背後から足音が聞こえてきた。
「もう終わったの!?」
結衣が走ってくる。
「はい」
舞夜が答える。
「そんなの、早すぎない!?」
結衣は舞夜が持っている写真を見る。
「何を見つけたの?」
「これです」
舞夜が写真を見せる。
結衣は数秒間、写真を眺めた。
「へえ……」
そして、大樹を見る。
次に舞夜を見る。
そして――。
ニヤッと笑った。
「なるほど。
ちゃんと笑顔になれるものを見つけたんだね」
「はい」
舞夜が答える。
「でも……もう一つ見つけた気がします」
「もう一つ?」
結衣が尋ねる。
舞夜は俺を見る。
「……大切な思い出を」
一瞬――。
俺は何も言えなかった。
結衣がゆっくりと口を開く。
「おお……」
その時、後ろからやって来た麻美が結衣を見る。
「どうしたの?」
結衣は笑った。
「ううん。
ただ――」
俺たちのほうを見る。
「この体育祭、もっと面白くなりそうだなって思っただけ」
舞夜はもう一度、写真を大切そうにしまった。
俺は澄み切った空を見上げる。
体育祭は、まだ終わっていない。
それなのに――。
俺にはもう分かっていた。
今日という日はきっと、舞夜と俺がこれからも長く大切にしていく――。
そんな思い出の一つになるのだろう。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
舞夜が見つけたのは、ただの一枚の写真だけではありませんでした。
体育祭はまだ続きます。
そして、大樹と舞夜の思い出も、まだ増えていきます。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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