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可愛い人

「たぶん、誰を探せばいいのか分かった」


舞夜が瞬きをする。


「……誰ですか?」


俺は舞夜を指差した。


「お前」


沈黙。


数秒間、舞夜はただ俺を見つめていた。


「わ、私……?」


「ああ」


小林がもう一度カードを確認する。


「まあ、確かに指令の条件には当てはまってるな」


佐藤も頷いた。


「ああ。『可愛い人を探せ』って書いてあるし」


舞夜の顔がどんどん赤くなっていく。


「で、でも……」


その言葉を言い終える前に――。


背後から聞き慣れた声が響いた。


「ええええっ!? 好きな人を選んだの!?」


――結衣。


もちろん、こいつだった。


俺はゆっくり振り返る。


「どこから出てきたんだよ?」


「自分のチームを探してたの。

そしたら、今の話が聞こえてきた」


結衣は舞夜を見る。


それから俺を見る。


そして、もう一度舞夜を見る。


その笑顔が、どんどん大きくなっていく。


「大樹……」


「何だよ?」


「今、舞夜を選んだのって――好きな人だから?」


「違う!」


俺は即座に否定した。


「ただ、可愛いと思っただけだ!」


沈黙。


結衣が大きく目を見開く。


舞夜の顔がさらに赤くなる。


「そ、それも駄目です!」


「何でだよ!?

本当のことだろ!」


「じゃあ、舞夜のことを可愛いと思ってるって認めたんだね!?」


「そうだ!」


俺は答えた。


そして――。


一秒後。


自分が何を言ったのか理解した。


「……」


「……」


「……」


結衣が両手で頭を抱える。


「言ったぁぁぁぁ!」


近くにいた生徒たちが、こちらを振り返った。


「何だ?」


「どうしたんだ?」


「大樹が舞夜のことを可愛いって言ったらしいぞ!」


「結衣!」


俺は思わず叫んだ。


舞夜は完全に真っ赤になっていた。


「だ、大樹……」


「待ってくれ!」


「無理に説明しなくても大丈夫です」


結衣が勝ち誇ったような表情で近づいてくる。


「まずは京都。

そして今度はこれ。


大樹、ようやく進展してきたじゃん」


「どこにも進んでない!」


「じゃあ、どうして真っ先に舞夜を選んだの?」


俺は答えられなかった。


カードを見る。


そして、舞夜を見る。


答えは――実は、とても単純だった。


カードに書かれていた『可愛い』という言葉を見た瞬間、舞夜のことが頭に浮かんだ。


理由なんて考えていない。


探そうともしていない。


ただ――。


最初に頭に浮かんだのが、舞夜だった。


「それは……」


俺は言葉を止めた。


舞夜がじっと俺を見つめている。


「……指令の条件に、舞夜が当てはまると思ったから」


結衣が笑った。


「それ、最悪の答えだよ」


小林がカードを持ち上げる。


「それより、そろそろ競技を進めないか?」


「……あ、そうだった」


佐藤が紙を指差す。


「この子をどこかへ連れていけばいいのか?」


その時、競技を監督していた先生が近づいてきた。


「もう指定された人は見つけたのか?」


「はい」


俺が答える。


「彼女です」


先生は舞夜とカードを交互に見る。


「よし。

それなら第一段階はクリアだ」


「第一段階?」


俺たち四人が同時に尋ねる。


先生は笑った。


「そうだ。

カードの裏にも、もう一つ指令が書いてある」


小林が慌ててカードを裏返した。


俺たちは全員、身を寄せてそこに書かれた文字を読む。


『指定された人物を見つけたら、その人が笑顔になれるものを見つけてもらうこと』


舞夜が顔を上げる。


「私が笑顔になれるもの……?」


「その通り」


先生は体育祭の会場案内図を指差した。


「会場のどこかに、小さな封筒がいくつか隠されている。

その中の一つに、次の手掛かりが入っている」


そして先生は続けた。


「見つけた人物自身が、その封筒を見つけなければならない」


「それなら、ちゃんと宝探しになってるな」


佐藤が頷いた。


その横で、まだ俺たちのところにいた結衣がニヤリと笑う。


「まあ……」


俺を見る。


「少なくとも最初の指令から、面白い答えが聞けたけどね」


「もう言うなよ」


俺は釘を刺す。


「何も言ってないじゃん」


舞夜が小さく笑った。


「私、何をすればいいのか分かりました」


舞夜は軽く髪を整え、案内図を見る。


「封筒を探しましょう」


俺は数秒間、そんな舞夜を見つめた。


それから笑う。


「ああ。

行こう」


俺たちが歩き始めると、結衣は満足そうな顔でその場に残った。


「これは、思ってた以上に面白くなってきたね」


美子が結衣の隣に現れる。


「あなた、自分のチームに戻らなくていいの?」


「あと一分だけ」


結衣は俺たちのほうを見る。


「最後まで見届けたい」


麻美がため息をついた。


「本当に、あなたは変わらないわね」


「変わるつもりないもん」


一方、俺たちは校庭のいくつかの場所を探しながら歩いていた。


舞夜は俺の隣にいる。


時々、俺たちの視線が重なる。


そして、そのたびに――。


俺たちは自然と笑ってしまう。


宝探しは、まだ始まったばかりだ。


けれど、俺にとっては――。


すでに一番難しいことが起きていた。


かなり恥ずかしいことに気づいてしまったのだ。


誰かに「可愛い人を探せ」と言われた時。


俺は、誰を探せばいいのか――。


ほとんど考える必要すらなかった。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


大樹と舞夜の宝探しは、まだ始まったばかりです。


次の指令で、二人にどんな出来事が待っているのか――。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

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