秘密の指令
それから数日間、俺たちは授業と練習の繰り返しだった。
毎日、放課後になると、それぞれのチームが集まって練習する。
最初は疲れるだけだと思っていた。
けれど、終わってみれば意外と楽しかった。
特に――。
結衣が何かしらの理由をつけて、俺たちの近くに現れるからだ。
「大樹!」
「今度は何だよ?」
「別に。
まだ生きてるか確認しただけ」
「俺は元気だよ」
「残念」
「何で残念なんだよ?」
「さあ。
ちょっとくらいドラマがあってもいいかなって」
近くに座っていた松が吹き出した。
「もう大樹を放っておけよ、結衣」
「無理だよ。
大樹って、からかいやすいんだもん」
その横で、舞夜が髪を結び終えながら微笑んだ。
「そろそろ練習に集中したほうがいいと思います」
「それは俺もそう思ってる」
俺が答える。
「そうは見えないけど」
結衣が俺の顔を指差した。
「さっきから五分くらい、ずっと舞夜のほう見てたよ」
俺の動きが完全に止まった。
「見てない!」
舞夜の顔も赤くなる。
「結衣……」
「分かった、分かった。
黙るよ」
結衣は笑う。
「今のところはね」
そんな一週間は、思っていたよりずっと早く過ぎていった。
そして、ついに金曜日。
体育祭前、最後の一日がやってきた。
放課後、先生は最後の説明をするため、俺たち全員を体育館に集めた。
「明日は朝早くから始まる。
だから、全員七時半までに学校へ来るように」
体育館にざわめきが広がる。
「それから、宝探しは午前中の主要競技が終わった後に行う」
先生は続けた。
「各チームは集合地点へ向かい、そこでカードを一枚受け取る。
他のチームとのカード交換は禁止だ」
「もちろん、外部の人間から助けを受けることも禁止する」
「もし指令が無理難題だったら?」
悠真が尋ねた。
先生は少し笑った。
「その時は、自分たちで解決策を探せ」
体育館に笑い声が広がった。
先生は小さな箱を持ち上げる。
「この中に、それぞれの指令が書かれたカードが入っている。
一枚につき、内容はすべて違う」
「それ以上は教えないでください!」
結衣が声を上げた。
「教えるつもりはない」
先生は即答した。
「それも含めて、体育祭の楽しみだからな」
その後、説明会はすぐに終わった。
みんなが体育館から出ていく中、俺は舞夜と並んで歩いていた。
「なんだか、気になってきました」
舞夜が言う。
「俺もだ」
「どんな指令になると思いますか?」
「さあ。
全然分からない」
「もし、本当に難しいものだったら?」
俺は舞夜を見る。
そして、笑った。
「その時は、解決すればいい」
舞夜も微笑み返す。
「……一緒に」
「ああ。
一緒に」
数メートル後ろでは、結衣がその様子をじっと見ていた。
「やっぱり、京都で何か変わったよね」
美子が結衣を見る。
「どうしてそう思うの?」
「だって、前はあんなふうに答えなかったもん」
麻美が腕を組む。
「それって、悪いことなの?」
結衣は笑った。
「ううん」
そして、楽しそうに二人を見る。
「むしろ逆だよ」
◇ ◇ ◇
翌日――。
体育祭は、いつもとはまったく違う雰囲気の中で始まった。
学校には旗やポスターが飾られている。
生徒たちは体育着に着替え、観客席も大勢の生徒で埋まっていた。
グラウンドには、さまざまな競技の準備が整えられている。
「それでは――体育祭、開始!」
先生の一人が大声で宣言した。
その瞬間、拍手と歓声が学校中に響き渡った。
最初の数時間、俺たちはいくつかの競技に参加した。
もちろん、全部で勝てたわけじゃない。
むしろ、かなり恥ずかしい負け方をした競技もあった。
それでも、誰もそれほど気にしていなかった。
みんな、楽しむためにここへ来ている。
そして――。
午前最後の競技が終わったところで、先生が再びチームを集めた。
「よし。
いよいよ、みんなが待っていた時間だ」
先生が宣言する。
「宝探しだ!」
結衣が両手を上げる。
「やっと来たー!」
先生たちは、それぞれのチームへカードを配り始めた。
そして、俺たちのチームにも一枚のカードが渡された。
小林が封筒を手に取る。
「開けるか?」
舞夜と俺は、小林の近くへ寄った。
「ああ」
小林が封を切る。
中からゆっくりと紙を取り出した。
そして――。
紙を開く。
俺たち四人は、同時にそこへ書かれていた言葉を読んだ。
『可愛い人を探せ』
数秒間――。
誰も何も言わなかった。
「……何だよ、この指令」
佐藤が困惑したように呟く。
俺は紙を見つめたままだった。
そして――。
ほとんど考えることもなく。
一人の人物が、頭の中に浮かんだ。
舞夜。
俺はゆっくりと彼女のほうへ顔を向ける。
舞夜は不思議そうに俺を見る。
「……どうしました?」
「舞夜……」
俺が呼ぶ。
「はい?」
俺はカードを持ち上げた。
そして――。
「たぶん、誰を探せばいいのか分かった」
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
ついに体育祭が始まり、最初の「秘密の指令」も明らかになりました。
大樹が思い浮かべた「可愛い人」とは――?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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