新たな季節の始まり
月曜日の朝、学校は以前とまったく同じ日常に戻っていた。
――少なくとも、そう見えた。
同じ廊下。
同じ教室。
同じ先生たち。
そして、三日間の旅行から戻ったばかりなのに、勉強をしなければならないことに文句を言う、いつものクラスメイトたち。
「もう現実に戻る準備なんてできてない!」
教室中に悠真の声が響き渡った。
「三日間しか経ってないだろ」
自分の席から恒一が答える。
「だからだよ。
もっと休む時間が必要だったんだ」
「お前に必要なのは休養じゃない。
授業中に寝るのをやめることだ」
松が笑い声を上げた。
俺は最後の教科書を鞄にしまいながら、その様子を自分の席から眺めていた。
京都で過ごした数日間を終えて――。
こうして教室に戻ってくると、なんだか妙な気分だった。
何も変わっていないように見える。
だけど、俺には分かっていた。
何かが変わったのだ。
俺の視線は、教室の反対側へ向かった。
舞夜は結衣、麻美、美子と話をしていた。
いつも通り、落ち着いているように見える。
けれど――。
ふと、俺と舞夜の視線が重なった。
一瞬だけ、二人とも何も言わなかった。
そして、舞夜が微笑む。
俺も自然と笑った。
すると、ほとんど同時に俺たちは視線を逸らした。
「んー……」
すぐに結衣の声が聞こえてきた。
俺は振り返る。
結衣が、妙に真剣な表情で俺たちを見ていた。
「……何だよ?」
「別に」
「だったら、そんな目で見るなよ」
「ただ観察してるだけ」
「それが一番怖いんだけど……」
結衣は顎に手を当てた。
「面白いね」
「何が?」
「京都に行く前は、二人とも普通に話してたのに」
結衣は俺と舞夜を交互に見る。
「今は、目を合わせるだけでも恥ずかしそう」
「……何を言ってるのか分からない」
「そうだよね」
結衣は笑った。
「私にも分からないよ」
そう言って、俺が返事をする前に離れていった。
俺は小さくため息をつく。
やっぱり……。
何も変わっていない。
――そう思いたかった。
その時、チャイムが鳴った。
授業の始まりを告げる音に、俺たちはそれぞれの席へ戻る。
やがて先生が教室へ入ってきた。
「おはよう。
京都への修学旅行は楽しめたか?」
教室のあちこちから、ほぼ同時に声が返ってくる。
「「「はい!」」」
先生は教卓にいくつかの書類を置いた。
「それはよかった。
だが、今日からまたいつもの日常に戻ってもらうぞ」
教室中から一斉にため息が漏れた。
「安心しろ。
いきなり抜き打ちテストをするつもりはない」
その言葉を聞いた瞬間、教室の空気が一気に緩んだ。
「ただし、一つ知らせがある」
全員が再び先生へ視線を向ける。
「来週、学校の体育祭を開催する」
教室が一瞬だけ静かになった。
そして――。
「えっ、体育祭!?」
「またかよ!」
「もうそんな時期なのか!?」
次々と声が上がり、教室は一気に騒がしくなった。
先生が手を上げる。
「今年は、いくつか新しい競技も用意している」
ざわめきが少しずつ収まっていく。
「いつもの競技に加えて、チーム対抗の小さな宝探しも行う予定だ」
その瞬間、結衣が勢いよく手を挙げた。
「先生!」
「何だ、田中」
「景品はありますか!?」
先生は深いため息をついた。
「……ある」
「参加します!」
教室中に笑い声が広がった。
俺は舞夜を見る。
舞夜も楽しそうに笑っていた。
「またイベントが増えましたね」
彼女が小さな声で言う。
「ああ。
ただ、今回は結衣がズルをしないことを願うよ」
舞夜は微笑んだ。
「それは無理だと思います」
「だよな」
二人で小さく笑う。
その瞬間――。
俺は、ふと思い出した。
京都の夜。
テラスから見えた、静かに輝く街。
そして――。
重なった俺たちの手。
『これからも、一緒に思い出を作っていきましょう』
俺たちは、そう約束した。
そして今。
たった数日しか経っていないというのに、学校は俺たちに新しい約束を叶える機会を与えてくれた。
体育祭で、何が待っているのかは分からない。
舞夜との関係が、これからどれほど変わっていくのかも分からない。
だけど――。
一つだけ、はっきりして
第193話を読んでいただき、ありがとうございます!
京都旅行を終え、いつもの学校生活へ戻った大樹たち。
しかし、二人の関係はもう以前と同じではありません。
そして来週は、学校の体育祭!
新しいイベントとともに、大樹と舞夜の物語も新たな段階へ進んでいきます。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
これからも応援よろしくお願いします!




