約束を写した一枚
放課後のチャイムが鳴り、授業の終わりを告げた。
京都から帰ってきて、まだ数日しか経っていない。
それでも、学校の雰囲気はすっかりいつも通りに戻っていた。
廊下を走る生徒たち。
活動を始める部活動。
まるで旅行など最初からなかったかのように、次々と課題を出してくる先生たち。
けれど――
俺たちにとっては、何かが少しだけ違っていた。
「まだ、全部終わったって信じられないな……」
小林が机に突っ伏しながら呟く。
「もう三日も経ってるのに、まだそれ言ってるのか?」
佐藤が呆れたように返す。
「だって、心が痛いんだよ」
「痛いのは、また勉強が始まったからだろ」
松が言う。
すぐに笑い声が起こった。
俺はノートを鞄にしまいながら、何気なく窓の外を眺めた。
校庭は夕焼けに染まり、柔らかなオレンジ色の光に包まれている。
なぜだろう。
その景色を見た瞬間、京都の街並みを思い出した。
ホテル。
宝探し。
撮った写真。
そして――
あの夜のテラス。
「何を考えてるんですか?」
顔を上げる。
舞夜が俺の机の横に立っていた。
「別に、大したことじゃないよ」
「それはつまり、大したことがあるということですね」
舞夜が微笑む。
「いつから、そんなに俺のことが分かるようになったんだ?」
「もう、かなり前からですよ」
思わず笑ってしまう。
その後ろから、結衣、麻美、美子が現れた。
「はい、みんな!」
結衣が両手を机につきながら宣言する。
「これから、京都旅行を振り返るための公式反省会……じゃなくて、思い出会を始めます!」
「そんな会、あるのか?」
松が尋ねる。
「今、私が作った!」
「なるほど……それなら納得だ」
美子が呆れたように答える。
結衣は鞄から何枚もの写真を取り出し、机の上に並べた。
「昨日、現像してきたんだ!」
俺たちはすぐに写真を覗き込んだ。
そこには、バスの中の写真。
寺院で撮った写真。
宝探しの様子。
そして展望台での写真があった。
「こんなに現像したの?」
麻美が驚く。
「大切な思い出は、ちゃんと残しておくものなの!」
結衣が胸を張る。
舞夜が一枚の写真を手に取った。
それは、展望台で撮った写真だった。
俺たち二人が無理やり撮らされた、あの一枚。
「これ、すごく綺麗に撮れていますね」
舞夜が微笑む。
「二人とも綺麗に写ってるからね」
結衣が意味ありげな笑顔で言う。
「またかよ……」
「「またですか……」」
俺と舞夜の声が、また同時に重なった。
数秒間、全員が黙る。
そして――
結衣が突然、大声で笑い始めた。
「やっぱり二人とも、どうしようもないね!」
舞夜は恥ずかしそうに視線を逸らし、俺はため息をついた。
それからしばらく、俺たちは旅行の話を続けた。
楽しかった出来事を思い出したり。
一番良かった場所について言い合ったり。
そして――
いつかまた、京都へ行こうと約束した。
やがて、教室から少しずつ人がいなくなっていった。
麻美、美子、小林、佐藤、松がそれぞれ別れを告げ、教室を出ていく。
最後に残ったのは結衣だった。
教室を出る直前、結衣は俺と舞夜を振り返る。
そして、ニヤリと笑った。
「二人とも、あんまり長居しないでよ?」
「早く行け」
俺が返す。
「もう、そんなに怒らなくてもいいじゃん」
そう言って、結衣は教室を出ていった。
扉が閉まる。
そして――
数分ぶりに、教室が完全な静寂に包まれた。
舞夜は机の上に残った写真を眺めている。
その中から一枚を手に取ると、俺へ差し出した。
「これ……持っていてください」
俺は顔を上げる。
「いいのか?」
舞夜は頷いた。
「はい」
「これを見た時に、あの時の約束を思い出してほしいんです」
俺は写真へ視線を落とした。
京都で交わした、あの約束。
これからも、一緒に思い出を作っていく。
俺は微笑んだ。
「忘れないよ」
舞夜も微笑み返す。
「私もです」
夕日が教室の窓の向こうへ沈み始めていた。
俺はその写真をノートの中へ大切にしまった。
そして、舞夜と一緒に教室を出る。
確かに、京都旅行は終わった。
もうすぐ、休みも終わる。
でも――
学校の廊下を舞夜と並んで歩きながら、俺はふと思った。
物語は、突然大きく変わるわけじゃない。
少しずつ進んでいく。
何気ない会話と。
小さな約束と。
一緒に作った思い出によって。
そして、もしかしたら――
俺たちの旅は、まだ始まったばかりなのかもしれない。
第192話を読んでいただき、ありがとうございます!
京都旅行から帰り、いつもの学校生活へ戻った大樹たち。
けれど、京都で交わした約束と、二人で残した思い出は消えません。
舞夜から渡された一枚の写真が、これから二人の間でどんな意味を持つのでしょうか。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
これからも応援よろしくお願いします!




