君と帰る道
朝食を終えた後、俺たちは荷物を取りに、それぞれの部屋へ戻った。
ホテルの雰囲気は、これまでの日々とはまったく違っていた。
笑い声はまだ聞こえている。
それでも――
そこには、誰も隠しきれない寂しさが混ざっていた。
「もう帰るなんて、まだ信じられないな……」
小林がスーツケースを閉めようとしながら呟く。
「もう十分くらい、そのファスナーと戦ってるぞ」
佐藤が言う。
「お土産を買いすぎたんだよ」
「街の半分を持って帰ろうとするからだ」
松が小さく笑いながら、最後の荷物を片付けている。
俺もリュックを背負い、最後にもう一度部屋を見渡した。
乱れたベッド。
開けっ放しのカーテン。
そして、友達との何気ない会話。
それらすべてが、あと数分でここに置き去りになる。
「……そろそろ行くか」
俺が言うと、みんなが静かに頷いた。
俺たちは他の生徒たちと一緒にロビーへ降りた。
最後の記念写真を撮っている生徒もいる。
旅行中に撮った写真を送るため、連絡先を交換している生徒もいた。
ホテルの入口には、結衣、麻美、美子と一緒に舞夜が立っていた。
「みんな、帰る準備はできた?」
結衣が尋ねる。
「できてない」
小林が即答した。
「明日から学校なのも、まだ受け入れられない……」
「大丈夫。明日まではまだ一日あるから」
麻美が答える。
舞夜はホテルの前に停まっているバスを見つめ、小さく息を吐いた。
「……あっという間でしたね」
俺は舞夜の隣へ歩いていく。
「ああ」
「でも、それだけ楽しかったってことじゃないか?」
舞夜が微笑む。
「……そうですね」
先生たちが生徒たちを呼び始める。
やがて、俺たちは一人ずつバスへ乗り込んだ。
帰りの車内は、行きの時よりずっと静かだった。
疲れて眠っている生徒も多い。
窓の外を眺めながら、最後の時間を惜しむように景色を見つめている生徒もいる。
そして今回も――
舞夜は俺の隣の席に座った。
しばらく、俺たちは何も話さなかった。
ただ、少しずつ遠ざかっていく京都の街を眺めていた。
「ねえ、大樹」
突然、舞夜が口を開く。
「ん?」
舞夜はスマートフォンを取り出し、俺たちが展望台で撮った写真を開いた。
「家に帰ったら、旅行中に撮った写真を全部送ってくださいね」
俺は笑った。
「もちろん」
「……まあ、半分くらいは舞夜の写真だけどな」
「それなら、なおさら嬉しいです」
舞夜はそう言って、スマートフォンをしまった。
そして、再び窓の外を見る。
「ねえ」
「何?」
「きっと何年か経ったら……」
「この旅行を思い出して、あの時は本当に大切な時間だったんだって気づくんでしょうね」
俺は前の席を見る。
そこでは、結衣が麻美の肩にもたれて眠っていた。
少し離れたところでは、小林が余ったお菓子をめぐって佐藤と何か言い争っている。
そして――
俺は隣にいる舞夜を見る。
「……ああ」
「きっと、そうだな」
舞夜が微笑む。
そして、ゆっくりと俺の肩に頭を預けてきた。
心臓が、一瞬止まったように感じた。
でも――
俺は何も言わなかった。
ただ、そのまま彼女と一緒に窓の外を眺めていた。
窓の向こうで、京都の山々が少しずつ遠ざかっていく。
旅行は、終わろうとしていた。
それでも――
肩に感じる舞夜の頭の重み。
そして、周囲から聞こえてくる仲間たちの笑い声。
そのすべてを感じながら、俺は一つのことを理解した。
この数日間は、ただ過去の思い出になるだけじゃない。
きっと――
何か新しいものの始まりになる。
俺は目を閉じ、昨夜交わした約束を思い出す。
『これからも、一緒に思い出を作っていきましょう』
自然と笑みがこぼれた。
その未来が――
初めて、思っていたよりずっと近くに感じられたからだ。
そして――
会話と笑い声に包まれながら。
家へ帰ることを告げる空の下で。
俺たちの京都旅行は、静かに終わりを迎えた。
けれど――
俺たちの物語は、まだ終わりにはほど遠かった。
第191話を読んでいただき、ありがとうございます!
たくさんの思い出と、舞夜との新しい約束を胸に、大樹たちは帰路につきます。
けれど、これは終わりではありません。
京都で過ごした時間は、二人にとって新しい物語の始まりでもありました。
次回から始まる新しい日々も、楽しんでいただけたら嬉しいです!
これからも応援よろしくお願いします!




