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旅の終わり、新しい始まり

目覚ましの音が、再び部屋いっぱいに響いた。


俺はゆっくりと目を開け、数秒間、天井を見つめていた。


そして――思い出す。


今日は、旅行の最終日だ。


窓のほうへ顔を向ける。


カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいた。


いつもの朝とは違う。


なぜか突然、胸の奥に寂しさのようなものが込み上げてきた。


「……起きたくない」


隣のベッドから小林の声が聞こえる。


「この旅行で初めて、意見が一致したな」


まだ眠そうな佐藤が答えた。


松が上半身を起こし、ため息をつく。


「このまま寝てたら、朝食に間に合わなくなるぞ」


その瞬間、小林が勢いよく目を開けた。


「なんでそれを先に言わないんだよ!」


「……すごいな」


俺は呆れながらベッドから起き上がった。


俺たちは、ほとんど無言で出発の準備を始めた。


たぶん、みんな同じことを考えていたからだ。


何日も前から楽しみにしていた修学旅行。


その終わりが、あまりにも早くやってきた。


部屋を出る前、俺はリュックを手に取った。


その時、前のポケットに何かが入っていることに気づく。


赤いお守り。


俺は数秒間それを見つめてから、もう一度ポケットへ戻した。


そして、自然と昨夜のことを思い出す。


京都の街明かり。


ホテルのテラス。


そして――


舞夜と交わした約束。


「大樹、行くぞ?」


松が声をかける。


「ああ、今行く」


俺たちは他の生徒たちと一緒に食堂へ向かった。


そこは、これまでの朝とは少し違った雰囲気に包まれていた。


みんな楽しそうに話し、笑っている。


それでも――


誰も、この旅行が終わってほしくないと思っているのが伝わってきた。


俺たちが席を探していると、背後から聞き慣れた声が聞こえた。


「おはようございます」


振り返る。


そこには、結衣、麻美、美子と一緒にいる舞夜が立っていた。


「おはよう」


俺も返す。


ほんの一瞬、俺たちの視線が重なった。


その瞬間――


二人とも、昨夜の出来事を思い出した。


舞夜が先に視線を逸らし、小さく微笑む。


「よく眠れましたか?」


「うん……でも、あまり眠った気がしない」


「私もです」


その様子を、結衣が黙って数秒間見つめていた。


そして――


怪しげな笑顔を浮かべる。


「へぇ……なんだか面白い会話をしてるね」


「朝から始めるなよ」


俺は警告する。


「まだ何も言ってないよ?」


「それが問題なんだよ」


麻美が声を上げて笑った。


「まだ朝なのに、よくそんな元気があるね」


「これが私の人生の使命だから!」


結衣は誇らしげに答えた。


俺たちは全員で同じテーブルに座り、朝食を食べ始めた。


冗談を言い合いながら、自然と旅行中の楽しかった出来事を振り返っていく。


「俺が一番好きだったのは、宝探しの時に小林が迷子になったところかな」


佐藤が言う。


「それは違う!」


小林が反論する。


「ただ道を間違えただけだ!」


「三回もな」


松が冷静に訂正する。


テーブルに笑い声が広がった。


「じゃあ、舞夜は?」


美子が尋ねる。


舞夜は数秒間考えてから答えた。


「そうですね……」


「私は、やっぱり何気ない時間が一番好きでした」


「みんなで歩いた時間や、話をした時間……」


「それから、この数日間にあった小さな出来事も」


そう話しながら、舞夜の視線がほんの一瞬だけ俺へ向いた。


他の誰も気づかなかったかもしれない。


でも俺には――


彼女が何を言いたいのか、はっきり分かった。


しばらくして、一人の先生が俺たちのテーブルへやって来た。


「朝食を食べ終わったら、それぞれ部屋に戻って荷物をまとめるように」


「バスは一時間後に出発する」


その言葉に、食堂から小さなざわめきが広がった。


「もう……時間なんだね」


麻美が呟く。


「あと一日くらい、ここにいたかったな」


小林も続ける。


舞夜は窓の外を眺める。


「……私も、そう思っていました」


その言葉を聞いた瞬間――


俺はポケットの中にある赤いお守りを、無意識に少し強く握った。


旅行は、もうすぐ終わる。


でも――


京都で過ごした時間のすべてを振り返ると、なぜかそんな気がしなかった。


むしろ――


何か新しいものが、今まさに始まろうとしている。


そんな予感がしていた。

第190話を読んでいただき、ありがとうございます!


楽しかった京都旅行も、ついに最後の日を迎えました。


大樹のポケットに残った赤いお守り。

そして、舞夜と交わした「これからも思い出を作る」という約束。


旅行が終わっても、二人の時間は続いていきます。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

これからも応援よろしくお願いします!

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