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京都の夜の約束

ホテルの扉が、俺たちの後ろで静かに閉まった。


数秒間、舞夜と俺は何も話さず、ホテルの周りにある小さな遊歩道を歩いていた。


遠くには街の明かりが輝き、夜風が吹いている。


ロビーの賑やかさとは違い、そこはとても静かだった。


「やっぱり、結衣は絶対に何か細工したと思う」


俺が呟くと、舞夜が小さく笑った。


「たぶん、そうでしょうね」


「たぶん?」


「結衣ですから。九十九パーセントくらいの確率で」


「ありがとう。余計に安心できなくなったよ」


舞夜がまた笑う。


俺たちはさらに数メートル歩き、小さなテラスへとたどり着いた。


そこからは、明かりに照らされた京都の街の一部を見渡すことができた。


いくつかのベンチが置かれ、その周囲には小さな庭が広がっている。


舞夜は手すりに寄りかかり、京都の街を眺めていた。


「……綺麗ですね」


俺も隣に立つ。


「ああ」


しばらくの間、俺たちは何も話さなかった。


何日もクラスメイトに囲まれ、冗談を言い合い、賑やかに過ごしてきた。


だからこそ、その静けさは不思議と嫌ではなかった。


むしろ――


心地よかった。


「ねえ」


突然、舞夜が口を開く。


「旅行が始まった時は、ただの修学旅行になると思っていました」


「俺もそう思ってた」


「でも……」


舞夜は街を見つめたまま、静かに続ける。


「今は、終わってほしくないと思っています」


俺は驚いて舞夜を見る。


彼女はそのまま京都の夜景を見つめていた。


「この数日間は、私にとって特別でした」


「観光したことも、写真を撮ったことも……」


舞夜は少しだけ間を置く。


「みんなで話した時間も……」


そして――


「その多くは、南くんのおかげだったと思います」


俺は数秒間、何も言えなかった。


「俺は……別に、何も特別なことはしてないと思うけど」


舞夜はゆっくりと首を横に振った。


「違います」


「南くんは、いつも私と一緒にいてくれました」


「バスの中でも、観光の時も、宝探しの時も……」


「それに、何気ない時間まで」


その言葉を聞いた瞬間、心臓の鼓動が少し速くなった。


何か返そうとした。


でも――


言葉が出てこない。


そんな俺の顔を見て、舞夜が微笑んだ。


「ほら。南くんを言葉に詰まらせることができました」


「それはずるいだろ」


「どうしてですか?」


「こんな会話をするなんて、予想してなかったから」


舞夜が声を上げて笑う。


「ふふ……すみません」


また静寂が訪れる。


夜風が舞夜の髪を優しく揺らしていた。


俺たちは並んで、京都の景色を眺めている。


その時――


舞夜が手すりの上に、ゆっくりと手を置いた。


俺の手から、ほんの数センチしか離れていない。


わざとなのか。


それとも、ただの偶然なのか。


俺には分からなかった。


でも――


なぜか思った。


もし、この瞬間を逃したら。


きっと、後で後悔する。


俺は小さく息を吸った。


そして少しだけ緊張しながら、手を伸ばす。


指先が、舞夜の手に触れた。


舞夜が少し驚いたようにこちらを見る。


一瞬。


俺たちは何も言わなかった。


そして舞夜は――


ゆっくりと指を絡めてきた。


心臓が、大きく跳ねた。


舞夜は恥ずかしそうに視線を逸らす。


「……これも、きっと大切な思い出になりますね」


小さな声だった。


俺は重なった手を見る。


そして、笑った。


「ああ」


「たぶん、忘れるほうが難しいと思う」


舞夜が小さく笑う。


「では……もう一つ、約束してくれませんか?」


「何を?」


舞夜が顔を上げる。


そして、まっすぐ俺の目を見る。


「家に帰ってからも……」


「これからも、一緒に思い出を作っていきましょう」


俺は数秒間、完全に動けなくなった。


でも――


答えは、すぐに決まった。


俺は舞夜の手を、そっと握り返す。


「約束する」


舞夜の顔に、笑顔が浮かんだ。


大げさでもなく、感情を爆発させるようなものでもない。


ただ、穏やかで――


心から嬉しそうな笑顔だった。


その瞬間。


京都の街明かりを眺めながら、手を繋いでいる俺たちの間に――


何かが、もう以前と同じではなくなった。


そんな気がした。


しかし――


遠くから、聞き慣れた声が響いてくる。


「二人ともー! あと二分だよー!」


……結衣だった。


舞夜が声を上げて笑う。


俺は思わずため息をついた。


「百メートルも離れてないのに、まだ邪魔してくるのかよ……」


「それも、きっと思い出の一つになりますよ」


舞夜が笑いながら言う。


俺はその言葉を聞いて――


今夜初めて、心の底から同意した。

第189話を読んでいただき、ありがとうございます!

大樹と舞夜は、二人だけの静かな時間の中で、新しい約束を交わしました。


「これからも、一緒に思い出を作っていく」


二人にとって、この約束はどんな意味を持つのでしょうか。


そして、最後まで二人を邪魔し続ける結衣……。

次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

これからも応援よろしくお願いします!

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