十五分間の二人
一時間後。
ホテルのロビーには、たくさんの生徒たちが集まっていた。
ソファに座って話している生徒もいれば、旅行中に撮った写真を見返している生徒もいる。
そして、結衣が一体何を用意したのか、予想しようとしている生徒もいた。
「これが夜のマラソンとかだったら、俺は部屋に戻るからな」
小林が呟く。
「五分も持たないだろ」
佐藤が返す。
「二分も無理だと思う」
松が付け加えた。
「お前ら、もう少し精神的に支えてくれよ……」
そんな会話を聞いていると、舞夜が麻美と美子と一緒にこちらへやって来た。
「結衣はもう来ていますか?」
「まだだよ」
「でも、それが余計に不安なんだよな」
舞夜が小さく笑う。
「そんなに心配なんですか?」
「結衣が必要以上に笑ってる時は、必ず何か起こるから」
「面白いことが起こる時もありますよ」
舞夜が訂正する。
俺が何か言い返そうとした、その時だった。
ロビー全体に、よく通る声が響いた。
「注目ー! 参加者のみなさーん!」
全員が一斉に振り向く。
結衣が、片手に小さな箱、もう片方の手に紙袋を持って、横の扉から現れた。
「頼むから、十キロ走るとか言わないでくれよ」
小林が言う。
「大丈夫、大丈夫」
結衣は笑顔で答えた。
「たった九キロだから」
「えっ!?」
「冗談だよ」
小林がホッとしたように息を吐く。
周囲から笑い声が起こった。
結衣はロビーの中央まで歩いていき、小さな箱を高く掲げる。
「京都最後の夜ということで――」
「今日は、とっても簡単なゲームを用意しました!」
「みんなには、この箱からクラスメイトの名前が書かれた紙を一枚引いてもらいます」
「そして、その相手と二人きりで十五分間話しながら、今回の旅行で一番印象に残った思い出を共有してもらいます!」
ロビーにざわめきが広がる。
「そのアイデア、悪くないね」
麻美が言う。
「意外とまともですね」
美子も続けた。
「もちろんでしょ!」
結衣が胸を張る。
「私は天才だから!」
「それはまだ議論の余地があるな」
俺が言う。
結衣は完全に無視した。
「はい、それじゃあ一列に並んで!」
生徒たちは順番に箱の中から紙を引き始めた。
小林は紙を開いた瞬間、声を上げて笑った。
「佐藤だ!」
「よろしく」
佐藤が苦笑する。
麻美は美子を引き当てた。
松もクラスメイトの一人を引いたらしい。
そして――
ついに、舞夜と俺の番が来た。
舞夜が先に紙を引く。
しばらく紙を見つめた後、彼女は微笑んだ。
「どうやら、私は運がいいみたいです」
「誰だった?」
「秘密です」
「それ、質問の答えになってないだろ」
舞夜は小さく笑い、紙をしまった。
俺も箱の中から一枚を引く。
ゆっくりと紙を開いた。
そして――
俺は固まった。
「……嘘だろ」
「どうしました?」
舞夜が尋ねる。
俺は紙を舞夜に見せた。
そこには、大きな文字でたった一つの名前が書かれていた。
八神舞夜。
舞夜が目を大きく見開く。
「えっ……」
彼女は慌てて、自分が引いた紙をもう一度確認した。
そして――
くすくすと笑い始めた。
「どうやら私も、とても面白い人を引いたみたいですね」
「まさか……」
舞夜が紙をこちらへ見せる。
そこに書かれていた名前は――
南大樹。
俺たちの後ろでは、結衣が満足そうな笑顔でこちらを見ていた。
「こんなすごい偶然って、あるんだね?」
「お前、絶対わざとだろ」
俺は即座に言った。
「えー? 私がそんなことするわけないじゃん」
「誰も信じてないぞ」
松が首を横に振りながら、その場を離れていく。
「頑張れよ、大樹」
「別に、頑張る必要なんてないだろ」
「いや、必要だと思う」
舞夜が笑いを堪えている。
結衣はそんな俺たちの背中を軽く押しながら、ホテルの外へ送り出した。
「はいはい! 二人とも十五分だからね!」
「ゆっくり話してきてね!」
「絶対、紙を操作しただろ!」
俺が抗議する。
「証拠は?」
「……」
何も言い返せなかった。
舞夜は俺の隣を歩きながら、ホテルの外へ出る。
夜の京都は少し肌寒かった。
街の明かりが、静かな通りを照らしている。
そして――
今日一日ずっと大勢の仲間と一緒にいた俺たちは、初めて完全に二人きりになった。
たった十五分。
それだけの時間のはずなのに――
なぜだろう。
この十五分は、俺が想像していた以上に大切な時間になる。
そんな気がしていた。
第188話を読んでいただき、ありがとうございます!
最後の夜に結衣が用意した「十五分間のゲーム」。
そして、偶然にもお互いを引き当てた大樹と舞夜。
京都の夜に二人きりで過ごす十五分間で、二人は何を語るのでしょうか?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
これからも応援よろしくお願いします!




