京都最後の夜
バスは、山々の向こうへ太陽が沈んでいく京都の街を、ゆっくりと進んでいた。
午後いっぱい歩き回ったせいか、車内には少しずつ疲れが広がっている。
小林は窓に寄りかかって眠っていた。
佐藤はスマートフォンを眺めながら、なんとか眠らないようにしている。
松はぼんやりと夜の景色を眺めていた。
そして俺は、今日撮った写真を一枚ずつ見返していた。
金閣寺。
庭園。
昔ながらの店が並ぶ通り。
そしてもちろん――舞夜の写真も何枚かあった。
「……私の写真、何枚あるんですか?」
後ろの席から舞夜の声が聞こえた。
俺は慌ててスマートフォンの画面を隠す。
「そんなにないって」
「今の言い方、なんだか怪しいですね」
結衣が座席の背もたれから顔を覗かせる。
「結衣は気にしなくていいから」
「ほら、やっぱり怪しい」
「見せてください」
舞夜が手を差し出す。
俺は仕方なくスマートフォンを渡した。
舞夜はゆっくりと写真をスクロールしていく。
「これ、とても綺麗に撮れてますね」
昨日の展望台で撮った写真を見ながら、舞夜が言った。
「……でも、南くんが少し真面目すぎる気がします」
「これが普通の顔なんだよ」
「それは、それで少し心配ですね」
「でしょ?」
結衣がすぐに口を挟む。
「五分くらい消えてくれないか?」
「無理。私の今回の旅行での使命は、まだ終わってないから」
「それも心配なんだけど……」
舞夜が声を上げて笑いながら、俺にスマートフォンを返してくる。
「二人とも、ずっとこのままでいてくださいね」
「……今、俺と結衣を同じグループに入れた?」
俺が尋ねる。
「はい」
結衣が誇らしげに両手を上げた。
「ついに誰かが私たちの友情を認めてくれた!」
「そんなこと言ってませんよ」
舞夜が即座に返す。
車内に、また笑い声が広がった。
やがて、前方にホテルの明かりが見えてきた。
バスが停車すると、先生たちが生徒たちを順番に降ろしていく。
「よし、みんな」
先生が声をかける。
「明日はいよいよ帰る日だから、今日はしっかり休むように」
その言葉を聞いた瞬間――
なぜか、胸の奥に奇妙な感覚が生まれた。
それまで、この旅行はずっと続くような気がしていた。
でも突然――
家へ帰る日が、思っていたよりずっと近くまで来ていることを実感した。
「明日、もう帰るんですね……」
ホテルの入口へ向かって歩きながら、舞夜が小さく呟いた。
「俺も信じられないよ」
「昨日、ここに着いたばかりみたいな気がする」
舞夜が微笑む。
「それだけ楽しかった、ということなのかもしれませんね」
俺はゆっくりと頷いた。
「……そうだな」
俺たちはクラスのみんなと一緒にホテルのロビーへ入った。
何人かの生徒は、帰る前にどんなお土産を買うか話している。
別のところでは、今日撮った写真を見せ合っている生徒たちもいた。
そんな中――
結衣が妙に嬉しそうな顔で俺たちのところへやって来た。
「みんな、よく聞いて!」
「とても大事なお知らせがあります!」
松が呆れたように言う。
「結衣がそういうことを言う時って、必ず誰かが大変な目に遭うんだよな」
「大げさだなぁ」
結衣は腰に手を当てる。
「今日は京都旅行最後の夜だから――」
「夕食の後に、特別なことをすることにしました!」
舞夜が首を傾げる。
「特別なこと……?」
結衣はニヤリと笑った。
「それは秘密!」
「それじゃ、何も分からないだろ」
俺が突っ込む。
「だから秘密なんだよ」
麻美がため息をつく。
「もう嫌な予感しかしないんだけど……」
「もう遅いよ」
結衣は楽しそうに笑った。
俺たちはそれぞれの部屋へ戻るため、荷物を置きに階段を上っていく。
その途中、俺はふと考えていた。
結衣のことだ。
あの「特別なこと」が、何なのかなんて想像もつかない。
そして、なぜだろう。
京都最後の夜には――
まだ俺たちの知らない、いくつかの出来事が待っている。
そんな気がしてならなかった。
第186話を読んでいただき、ありがとうございます!
楽しかった京都旅行も、ついに最後の夜を迎えました。
しかし、結衣が企画した「特別なこと」が、まだ残っています。
果たして最後の夜に、どんな出来事が待っているのでしょうか?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
これからも応援よろしくお願いします!




