本当の宝物
「始め!」
先生の笛の音が響いた瞬間、宝探しが始まった。
数秒もしないうちに、すべてのチームがそれぞれ別の方向へ走り出していく。
舞夜は地図を広げながら、公園の小道を歩いていた。
「最初の手がかりは……『水が空を映す場所を探せ』ですね」
「ずいぶん詩的だな」
俺が言うと、佐藤が苦笑する。
「それとも、かなり難しいってことじゃない?」
小林が地図の北側を指差した。
「ここに池がある。もしかしたら、そこじゃないか?」
「じゃあ、行ってみよう」
俺たちは池へ向かって歩き始めた。
それから数分間、木々に囲まれた小道を進んでいく。
その横を、他のチームが何度も走り抜けていった。
時々、遠くから結衣の声まで聞こえてくる。
「私たちが一番に宝を見つけるんだからねー!」
「……どうしてあいつは、まだあんなに元気なんだ」
俺が呟くと、舞夜が小さく笑った。
「もしかしたら、お菓子で動いているのかもしれませんね」
「あり得そうで怖いな……」
やがて、俺たちは池へとたどり着いた。
水面には雲と、その向こうに見える山々が綺麗に映っている。
まさに、手がかりに書かれていた通りだった。
「ここで間違いなさそうですね」
舞夜が言う。
小林が周囲を調べていると、岩の後ろに小さな木箱が隠されているのを見つけた。
「これじゃないか?」
中には、折り畳まれた紙が一枚入っていた。
佐藤がすぐに紙を開く。
「『太陽が沈み始めたら、最も古い木の影を探せ』……だって」
「どうやって、それを見つけろっていうんだ?」
俺が尋ねる。
「それは……確かに難しいですね」
舞夜も地図を見ながら答えた。
その後の一時間、俺たちは公園のほとんどを歩き回った。
いくつもの謎を解き、新しい手がかりを見つけていく。
一番になることはできなかった。
それでも、大きく遅れることもなかった。
そして――
太陽が少しずつ西へ傾き始めた頃。
俺たちは、地図に最後に記されていた場所へたどり着いた。
そこには、石のベンチに囲まれた巨大な木が立っていた。
その木のそばには、先生が箱を抱えて待っていた。
「おめでとう。これで全行程クリアだ」
先生は最後の封筒を俺たちに渡し、笑う。
「開けてみなさい」
舞夜が慎重に封を切った。
中に入っていたのは、一枚の紙。
そこには黒いインクで、たった一つの文章が書かれていた。
『本当の宝物は、みんなで作った思い出です』
数秒間、俺たち四人は黙っていた。
「へぇ……」
佐藤が呟く。
「チョコレートとか期待してたんだけどな」
小林が残念そうに言った。
思わず笑ってしまう。
舞夜はその言葉をじっと見つめた後、微笑んだ。
「……確かに、そうかもしれませんね」
「うん」
俺も頷いた。
ふと周囲を見渡す。
空は少しずつオレンジ色に染まり、公園全体が夕日の光に包まれていた。
遠くからは、他の生徒たちが少しずつ広場へ集まってくる声が聞こえる。
小林と佐藤は先に歩き出し、みんなのところへ戻っていった。
俺と舞夜だけが、数歩遅れてその場に残った。
舞夜はポケットから赤いお守りを取り出し、しばらくそれを見つめていた。
「今日は、いろいろなものを手に入れましたね」
「お守りに、たくさんの写真。それから、いくつもの謎の答え」
「それと……もう少し、思い出も増えましたね」
舞夜が言う。
俺はゆっくりと頷いた。
「そうだな」
舞夜はお守りをしまい、空を見上げる。
「この旅行が終わったら……」
「きっと、私は今日みたいな時間を一番恋しく思うんでしょうね」
俺はすぐには答えられなかった。
ほんの数日前まで、今回の修学旅行はただの学校行事だと思っていた。
でも今なら、舞夜が言いたいことが分かる。
「まだ、もう少し時間は残ってる」
俺はようやく言葉を返した。
舞夜がこちらを見て、微笑む。
「では、残りの時間も大切にしましょう」
俺たちは広場へ向かって歩き出した。
そこでは、すでに他の生徒たちが先生たちを囲んで集まっていた。
そして、宝探しの結果発表が始まった。
優勝したチームには、いくつかのお菓子が贈られた。
そして――
予想通り、結衣は数分間ずっと文句を言い続けていた。
「再戦を要求します!」
「再戦はありません」
先生が即答する。
「こんな不公平な結果を、歴史が許すと思いますか!?」
麻美が声を上げて笑い、美子は呆れたように首を横に振った。
結局、俺たちもみんなで笑っていた。
その後、ホテルへ戻るためにバスへ乗り込む。
自分の席に座り、俺は窓の外を眺めた。
京都の山々の向こうへ、太陽がゆっくりと沈んでいく。
まだ旅行は終わっていない。
それなのに――
なぜか、あの日々は俺たちが思っているよりもずっと早く過ぎてしまう。
そんな気がした。
だからこそ――
一つ一つの瞬間が、少しずつ大切なものになっていくのだろう。
第185話を読んでいただき、ありがとうございます!
京都での宝探しを通して、大樹たちはまた一つ大切な思い出を作りました。
旅行はまだ続きますが、残された時間は少しずつ短くなっています。
次はどんな思い出が待っているのでしょうか?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
これからも応援よろしくお願いします!




