京都のお守り
寺院の庭園を見学した後、俺たちは木々に囲まれた小道を歩き続けた。
ガイドさんは、この場所の歴史について説明しながら、いくつもの建物や記念碑を指差していく。
しかし、歩き始めてから一時間近くが経つ頃には、少しずつ疲れが見え始めていた。
「よし、みんな!」
先生が声を張り上げ、俺たちの注意を集める。
「ここで三十分間の休憩にします」
「この周辺を自由に見て回ってもいいですし、お土産を買ったり、座って休んだりしても構いません」
「ただし、あまり遠くへ行かないようにしてください」
その言葉を聞いた瞬間、あちこちから声が上がった。
「やっと休憩だ!」
「五分だけでも座りたい……」
「何か飲み物を買ってこよう」
そして――
もちろん、一番大きな反応を見せたのは結衣だった。
「お菓子の時間だー!」
「昨日から、この瞬間をずっと待ってただろ」
俺が言うと、結衣は胸を張った。
「もちろん!」
「後悔なんてしてないよ!」
麻美が吹き出す。
「その執念、ちょっと怖いよ」
俺たちは、昔ながらの店が並ぶ小さな通りへ向かった。
そこには扇子やキーホルダー、お守りなど、京都らしいお土産がたくさん並んでいる。
そんな中、舞夜が一軒の店の前で足を止めた。
ショーウィンドウには、小さな動物の置物がたくさん並んでいる。
「かわいい……」
舞夜が小さく呟く。
「気に入った?」
俺が尋ねると、舞夜は頷いた。
「はい、とても」
「でも、どれにするか迷いますね」
俺も近づいて、じっくりと見てみる。
そこには狐や猫、それに小さなウサギの陶器の置物が並んでいた。
「じゃあ、これがいいんじゃないか?」
俺は小さな白いウサギを指差した。
舞夜はその置物を手に取る。
「ウサギですか?」
「うん」
「なんとなくだけど……舞夜っぽい気がする」
舞夜が驚いたように俺を見る。
「それって……褒めてます?」
「たぶん」
俺が答えると、舞夜は小さく笑った。
「では、褒め言葉として受け取っておきますね」
その時だった。
「見つけたー!」
背後から、結衣の声が聞こえた。
振り返ると、結衣が大量のお菓子の入った大きな袋を抱えている。
「……どれだけ買ったんだ?」
麻美が驚いた顔で尋ねる。
「旅行の残りの日数を生き抜くために必要な分!」
「それ、一年くらい生きられる量じゃないか?」
俺が言う。
結衣は俺の言葉を完全に無視して、舞夜が持っているウサギの置物を見る。
「あれ……?」
「それ、なかなか面白いね」
「始めるなよ」
「「始めないでください」」
俺と舞夜の声が、また同時に重なった。
結衣はすぐに笑顔になる。
「二人とも、どんどん私にネタを提供してくれるよね!」
舞夜は慌ててウサギの置物を背中に隠した。
「何も言わないでくださいね」
「それは約束できないなぁ」
美子がため息をつく。
「本当に、結衣はどうしようもないね」
俺たちはそのまま店を巡りながら歩き続けた。
少しずつグループも分かれていく。
辺りには穏やかな空気が流れていた。
木々の葉を揺らす風の音。
観光客たちの話し声。
そのすべてが重なり合い、まるで一枚の絵葉書の中にいるような気分になる。
そんな中、舞夜が突然、小さなお守りの店を指差した。
「入ってみませんか?」
「もちろん」
俺たちは店の中へ入った。
外から見るより、ずっと小さな店だった。
壁一面に、色とりどりの小さなお守りが並んでいる。
それぞれに違った意味があるらしい。
「幸運」
「健康」
「成功」
「友情」
そして――
「恋愛」
最後の文字を見た瞬間、俺は反射的に視線を逸らした。
……よりによって。
結衣も、その文字を見逃していなかった。
「へぇ……」
「面白い種類があるね」
「絶対、何も言うなよ」
俺は先に釘を刺した。
「まだ何も言ってないよ?」
「『まだ』って言っただろ」
結衣が声を上げて笑う。
その隣では、舞夜が恥ずかしそうに別の棚を眺めていた。
……この状況、これ以上悪くなることなんてないだろ。
俺は、そう思った。
しかし――
その直後。
結衣が赤い小さなお守りを二つ手に取った。
そして、それを俺たちの目の前に掲げる。
「ねえ……」
結衣の顔には、今まで以上にいたずらっぽい笑顔が浮かんでいた。
「ちょっと、いいこと思いついた」
第182話を読んでいただき、ありがとうございます!
京都の街を楽しみながら、お土産探しを始めた大樹たち。
そして、最後に結衣が見つけた「恋愛」のお守り。
赤いお守りを二つ手にした結衣は、一体何を思いついたのでしょうか?
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
これからも応援よろしくお願いします!




