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眠る前の小さなゲーム

自由時間が続く中、ホテルのロビーから少しずつ生徒たちの姿が減っていった。


自分の部屋へ戻る生徒もいれば、ソファで話し続ける生徒や、中庭を歩いている生徒もいる。


俺たちは、池を見渡せる大きな窓の近くに残っていた。


結衣が飲み物とお菓子を配り終えたばかりだったこともあり、そこには驚くほど穏やかな空気が流れていた。


「明日には、もう二日目なんだよね」


庭園の明かりを眺めながら、麻美が呟いた。


「私も信じられない」


美子が答える。


「今日があっという間に終わっちゃった感じがする」


舞夜も頷いた。


「本当ですね」


「今朝まで、まだバスの中にいたのに……」


「それが今は京都で、こんな豪華なホテルにいるんだからね」


結衣が言った。


「人生って、何が起こるか分からないよね」


「お前、いつからそんな哲学的になったんだ?」


俺が尋ねる。


「今からだいたい十秒前!」


その答えに、全員が吹き出した。


しばらくすると、俺たちは自然と黙り込んだ。


池から聞こえてくる水の音だけが、静かなロビーに響いている。


不思議だった。


一日中あれだけ騒がしかったからこそ――


こういう静かな時間が、妙に心地よく感じられた。


「ねえ」


突然、美子が口を開いた。


「今日、一番楽しかったことって何だった?」


「ご飯!」


結衣が一秒も迷わず答える。


「やっぱりね」


麻美が笑う。


「なんでみんな驚くの?」


結衣は不思議そうな顔をする。


舞夜が微笑んだ。


「私は、東山を歩いたことですね」


「まるで別の時代に来たみたいで……すごく楽しかったです」


「私は展望台かな」


麻美が続ける。


「あそこからの景色、本当にすごかったから」


そして――


みんなの視線が、俺に集まった。


「大樹は?」


俺は数秒考えた。


今日だけでも、たくさんの出来事があった。


バスの中での時間。


結衣のくだらない冗談。


昔ながらの街並み。


展望台で撮った写真。


そして――


気づかないうちに、俺は舞夜を一瞬だけ見ていた。


「俺も……展望台かな」


舞夜が少しだけ視線を落とす。


そして、ほんのりと笑った。


もちろん、結衣がその瞬間を見逃すはずがない。


「へぇ~」


「ずいぶん都合のいい偶然だね」


「やめろよ」


「何も言ってないじゃん」


「言わなくても分かるんだよ」


結衣が声を上げて笑う。


「やっぱり、二人って面白いよね」


俺が何か言い返そうとした、その時だった。


廊下から、こちらへ近づいてくる足音が聞こえた。


松が姿を現す。


髪はまだ少し濡れていた。


「ああ、ここにいたのか」


「悠斗と蓮が、大樹が迷子になったんじゃないかって心配してたぞ」


「まだ京都に来て一日も経ってないんだぞ」


「自分の部屋くらい、一人で見つけられるよ」


俺が答えると、松は笑いながら肩をすくめた。


「まあ、何があるか分からないからな」


そう言って、松は俺たちの隣に腰を下ろした。


麻美が尋ねる。


「温泉、どうだった?」


「最高だった」


「ただ、悠斗が中で寝そうになってたけどな」


「それ、危ないじゃん!」


結衣が驚いたように叫ぶ。


「大丈夫だって」


「ちゃんと起こしたから」


その言葉に、また全員が笑った。


ロビーの時計を見る。


午後九時半。


全員が部屋へ戻るまで、あと三十分。


それなのに――


誰も、まだこの一日を終わらせる気にはなれないようだった。


結衣が片側を見る。


次に反対側を見る。


そして、時計を確認する。


最後に――


口元に、危険な笑みを浮かべた。


俺には分かる。


あの顔を見れば、何か良くないことを考えているに違いない。


「ねえ……」


結衣が口を開いた。


「今、いいこと思いついた」


舞夜が大きく目を見開く。


「……嫌な予感がします」


松がため息をついた。


「お前が『思いついた』って言う時は、毎回誰かが後悔するんだよな」


「大げさだなぁ」


結衣は腕を組んだ。


「今回は本当に何も危ないことしないから!」


「全然信用できない」


俺が即答する。


「信じてよ」


結衣は一歩前へ出る。


そして、まるで一年で一番重要なイベントでも発表するかのように、片手を高く掲げた。


「それでは、みなさん!」


「寝る前に――」


「ちょっとしたゲームを始めましょう!」


その瞬間。


俺たち全員の顔に、なんとも言えない表情が浮かんだ。


誰一人として、結衣の提案を心から信用していない。


そして正直なところ――


俺も、まったく信用していなかった。

第178話を読んでいただき、ありがとうございます!


京都旅行の夜は、まだ終わりません。

そして、結衣が突然始めようとしている「寝る前のゲーム」。


果たして、どんなゲームが始まるのでしょうか?


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

これからも応援よろしくお願いします!

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