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京都の最初の夜

帰り道のバスは、行きよりもずっと静かだった。


京都に到着したばかりの頃にあった興奮も、長い一日の疲れに少しずつ変わっている。


窓にもたれかかって眠っているクラスメイトも多い。


一方で、午後に撮った写真を確認している生徒もいた。


俺も、その一人だった。


バスの窓側の席に座りながら、カメラに保存された写真を一枚ずつ眺めていく。


五重塔。


東山の街並み。


展望台で撮った集合写真。


そして最後に――


舞夜の写真。


「まだ見てるの?」


突然、前の席から声が聞こえた。


驚いて顔を上げる。


結衣がこちらを振り返っていた。


「何のことだよ」


「はいはい」


結衣は呆れたように笑う。


「じゃあ、なんで五分も同じ写真を見てるのか説明してみてよ」


「ちゃんと撮れてるか確認してただけだ」


「五回目の確認だけど?」


俺はため息をついた。


「暇すぎるだろ、お前」


「大樹の言い訳が多すぎるんだよ」


その会話を聞いていた舞夜が、隣で小さく笑った。


「結衣、あまり南くんをからかわないでください」


「今度は大樹の味方?」


「味方というわけじゃ……」


舞夜は少し困ったように笑う。


「ただ……写真、すごく綺麗に撮れていたので」


俺はもう一度、画面を見た。


確かに、舞夜の言う通りだった。


綺麗なのは、景色だけじゃない。


あの時の舞夜の笑顔が、その瞬間の幸せまで写し取っているように見えた。


俺は結衣にこれ以上からかわれる前に、カメラをしまった。


「逃げた」


「自分の精神衛生のためだよ」


俺がそう返すと、俺たちの周りに再び笑い声が広がった。


窓の外では、京都の街が少しずつ夜の姿へと変わっていく。


通り沿いの伝統的な提灯が一つ、また一つと灯り始める。


店の明かりも街を照らし、昼間とはまったく違う雰囲気を作り出していた。


「夜の街も、綺麗ですね」


舞夜が窓の外を眺めながら呟いた。


「うん」


俺も外を見る。


「まるで別の場所みたいだ」


「いつか、こんなふうに歩いてみたいです」


舞夜が、ほとんど独り言のように言った。


すると、結衣がすぐに反応した。


「へぇ~」


「誰と歩くつもりなの?」


「結衣!」


舞夜の顔が一気に赤くなる。


「ただ聞いただけだよ」


舞夜は恥ずかしそうに窓の外へ視線を逸らした。


俺も、この会話には関わらないほうがいい。


そう判断して、黙って窓の外を眺めることにした。


……しかし。


結衣は、そう簡単に終わらせてくれる相手ではなかった。


「ねえ、大樹はどう思う?」


「俺はこの話には参加しない」


「それ、『嫌』とは言ってないよね?」


「『いい』とも言ってないだろ」


結衣が吹き出す。


「やっぱり、二人とも本当に分かりやすいね!」


「どこがだよ……」


俺が呆れていると、ちょうどバスの速度がゆっくりと落ち始めた。


前方に、ホテルが見えてくる。


中庭の照明に照らされたホテルは、昼間とはまた違った美しさを見せていた。


先生がマイクを手に取る。


「ホテルに到着しました」


「慌てずに降りて、忘れ物がないようにしてください」


その言葉を聞いた瞬間、生徒たちが一斉に動き始めた。


眠気も疲れも少しだけ吹き飛んだように、みんながリュックやお土産の袋を手に取っていく。


バスを降りると、心地よい夜風が俺たちを迎えてくれた。


空は澄み渡り、街の上にはいくつかの星が見えている。


「まだ一日しか経ってないなんて、信じられませんね」


隣にいた舞夜が呟いた。


俺は少し驚いて彼女を見る。


「舞夜もそう思う?」


舞夜は頷いた。


「はい」


「本当に、いろんなことがありましたから」


「もっと長い間、ここにいるような気がします」


俺は笑った。


「でも、まだ二日も残ってる」


舞夜も笑顔を返す。


「それなら……」


「残りの時間も、思いっきり楽しみましょう」


「そうだな」


俺たちはクラスメイトと一緒にホテルの入口を通り抜ける。


その時、俺は思った。


舞夜の言う通りだ。


この旅行は、まだ始まったばかりなんだ。


それなのに――


俺はもう、この京都で迎えた最初の夜を。


きっと一生忘れないだろうと思っていた。

第175話を読んでいただき、ありがとうございます!


京都での最初の一日が終わり、大樹たちはホテルへ戻ってきました。

楽しい時間はまだ始まったばかりです。


残りの二日間で、どんな思い出が生まれるのでしょうか。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

これからも応援よろしくお願いします!

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