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君を写した一枚

昼食を終えると、俺たちは全員ホテルの正面玄関前に集まった。


空は相変わらず雲一つない快晴だった。


夏の暑さも、時折吹く穏やかな風のおかげで、それほど気にならない。


先生たちは出発する前に、もう一度班ごとの人数を確認していた。


「これからは、必ずガイドさんの後ろを歩くようにしてください」


「勝手に道路を横断したり、班から離れたりしないこと」


「どうしても離れる必要がある場合は、必ず先生に知らせてください」


「はい!」


俺たちは、ほぼ全員で声を揃えて返事をした。


ホテルの前には、観光用のバスが一台停まっていた。


バスに乗り込んでから、目的地まではそれほど時間がかからなかった。


数分後。


俺たちは、京都でも特に昔ながらの街並みが残る場所へと降り立った。


最初に俺の目を引いたのは――静けさだった。


観光客がこれだけ多いのに、そこには言葉では上手く説明できないような穏やかな空気が残っていた。


石畳の道。


その両側には、昔ながらの木造建築が並んでいる。


小さな喫茶店や茶屋、工芸品を扱う店。


軒先には伝統的な提灯が吊るされ、風に揺れる布の旗が静かにはためいていた。


「写真で見るより……ずっと綺麗ですね」


舞夜が小さく呟いた。


その表情には、本当に心から感動していることが伝わってくる。


「うん」


俺も周囲を見渡した。


「なんだか、昔にタイムスリップしたみたいだ」


舞夜はゆっくり頷く。


「でも、ちゃんと現代の街でもあるんですよね」


「そこが一番驚きます」


ちょうどその時、ガイドさんが歩き始めた。


「それでは、東山の歴史地区へようこそ」


「この辺りには、何百年もの間、大切に受け継がれてきた伝統的な街並みが残されています」


「周囲の環境や、ここで暮らしている方々への配慮を忘れずに、ゆっくり見学してください」


俺たちは説明を聞きながら、ゆっくりと歩いていった。


数メートル進むたびに、新しい何かが目に入る。


小さな石造りの水場。


竹垣の向こうにひっそりと隠れている庭園。


近くの寺から漂ってくる、お香の香り。


どこを見ればいいのか分からなくなるほどだった。


「ねえ、見て!」


結衣が突然、ある店を指差した。


そこには、日本の甘味が所狭しと並べられている。


「入りたい!」


「まだ自由時間じゃないぞ」


先生がすぐに注意する。


結衣は肩を落とした。


「そんなぁ……」


それを見て、麻美が吹き出す。


「あと少しくらい我慢できるでしょ」


「それは分からないよ」


俺たちは笑いながら、再び歩き始めた。


しばらく進むと、坂道へと差しかかった。


その先に――


大きな塔が屋根の向こうへと伸びているのが見えた。


立派な五重塔だった。


生徒たちは一斉にスマートフォンやカメラを取り出し、写真を撮り始める。


俺も父から借りてきたカメラを取り出した。


目の前に広がる景色を何枚か撮影する。


そして――


ふと、カメラを舞夜へ向けた。


舞夜は、俺が見ていることにも気づかず、五重塔を眺めていた。


太陽の光が、彼女の髪を優しく照らしている。


穏やかな表情。


目の前の景色に、完全に心を奪われているようだった。


俺は、ほとんど何も考えずに――


シャッターを切った。


カシャッ。


「……え?」


カメラの音に気づいた舞夜が、こちらを振り向く。


「今……私の写真、撮りました?」


少しだけ胸が跳ねた。


「ごめん」


「驚かせるつもりはなかったんだ」


俺は少し照れながら笑った。


「ただ……」


「すごく綺麗な景色だったから」


舞夜は数秒、黙っていた。


そして――


柔らかく微笑んだ。


「それなら……」


「あとで、その写真を見せてくださいね」


「もちろん」


「ちゃんと撮れていれば、だけど」


「きっと大丈夫ですよ」


その瞬間。


俺たちの後ろから、結衣がひょこっと顔を出した。


カメラを見る。


そして俺たち二人を見る。


最後に腕を組み、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「へぇ……」


「何だよ?」


俺は、すでに嫌な予感がしていた。


「別に?」


「ただ、大樹が芸術的な写真を撮り始めたんだなって思って」


「やめろよ」


結衣は楽しそうに笑う。


「最初は景色を撮ってたのに――」


「今度は、ある特定の人を撮るようになったんだね」


「次はどうなるんだろう?」


舞夜の顔が、みるみる赤くなる。


「結衣!」


「はいはい、分かった分かった」


結衣は両手を上げて降参のポーズを取った。


「これ以上は言わないよ」


「……今のところはね」


「おい……」


結衣がさらに何か言おうとした、その時だった。


先頭を歩いていたガイドさんが、小さな旗を掲げた。


「それでは、次は東山でも有名な展望スポットへ向かいます!」


「そこから京都の街を一望できますよ」


生徒たちは期待に胸を膨らませながら、再びガイドさんについて歩き始めた。


俺はカメラをバッグにしまった。


あの写真が、本当に上手く撮れているのかは分からない。


それでも――


なぜか、あの一枚だけは。


この旅行で撮った写真の中でも、きっとお気に入りの一枚になる。


そんな気がしていた。

第173話を読んでいただき、ありがとうございます!


ついに大樹たちは京都の街を歩き始めました。

そして大樹が撮った、舞夜の一枚の写真。


この写真が二人にとって、どんな思い出として残っていくのでしょうか。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

これからも応援よろしくお願いします!

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