古都への一歩
エレベーターの扉が一階で開くと、ロビーは再び学生たちでいっぱいになっていた。
すでにソファに座って待っている生徒もいれば、中庭を撮影している生徒もいる。
先生たちはホテルのスタッフと話しながら、もう一度出席者名簿を確認していた。
「どうやら、俺たちは最後のほうみたいだな」
松が周囲を見渡しながら言った。
「まだ結構いるみたいだけどな」
俺はロビーを行き交う生徒たちを眺めながら答えた。
すると、ほどなくして舞夜、結衣、麻美、美子の四人も姿を現した。
結衣が片手を上げてこちらに手を振る。
「いたいた! 三階のお隣さんたち!」
「隣じゃないだろ」
松がすぐに突っ込む。
「俺たちの間には七部屋もあるぞ」
「細かいことは気にしないの!」
その言葉に、俺たちは一斉に笑った。
その時、ホテルのスタッフの女性が先生たちのもとへ歩いてきた。
そして、丁寧に一礼する。
「お昼のお食事の準備が整っております」
「いつでも食堂へお越しください」
それを聞いた担任の先生が、手を叩いて生徒たちの注意を集めた。
「よし、みんな!」
「午後の活動を始める前に、ここで昼食を取ります」
「ホテルのスタッフや他のお客様に迷惑をかけないよう、くれぐれも礼儀正しく行動してください」
「はい、先生!」
生徒たちは一斉に返事をすると、食堂へ向かい始めた。
食堂は広々としていて、大きな窓からは中庭を眺めることができた。
すでにテーブルには料理が並べられ、それぞれの席には色とりどりの伝統料理が丁寧に盛り付けられている。
「美味しそう……」
料理を見つめながら、舞夜が呟いた。
「本当に美味しいといいね」
結衣が答える。
「私、お腹ぺこぺこだから!」
俺たちは近い席に分かれて座った。
俺は松と悠斗の向かい側。
舞夜たちは隣のテーブルに座った。
完全に同じテーブルというわけではない。
それでも、少し顔を上げれば――
すぐに視線を合わせることができた。
食事が始まると、食堂は穏やかな会話に包まれた。
ホテルの素晴らしさについて話す生徒もいれば、これから訪れる場所について盛り上がっている生徒もいる。
「みんなは、まずどこに行きたい?」
悠斗が尋ねた。
「俺は寺を見てみたいな」
蓮が答える。
「それから、食べられるだけ甘いものを食べたい!」
隣のテーブルから結衣が割り込んできた。
その言葉に、何人かの生徒が笑う。
「それはもう分かってるよ」
俺が言うと、結衣は箸を俺に向けた。
「美味しいスイーツの力を甘く見ないでよね!」
舞夜も微笑む。
「私は、昔ながらの街並みを歩いてみたいです」
「写真では何度も見たことがありますけど……」
「実際にここを歩くのは、きっと全然違うんでしょうね」
俺は頷いた。
「俺は歴史の本でよく出てくる場所を見てみたい」
「何百年も前に、たくさんの人が歩いた場所を自分も歩くって……」
「なんだか特別な感じがするよな」
「それなら、二人にはぴったりの旅行だな」
松が笑いながら言った。
やがて全員が昼食を食べ終えると、先生たちが再び俺たちを集めた。
担任の先生がテーブルの上に京都の地図を広げる。
「みんな、よく聞いてください」
「今日の午後から、最初の見学を始めます」
「これから向かうのは、歴史的な街並みが残る東山地区です」
「伝統的な通りを歩きながら、地元のお店を見学します」
「そして最後に、京都を代表する寺院の一つを訪れる予定です」
その説明を聞いた瞬間、食堂中から期待に満ちたざわめきが起こった。
先生は続ける。
「くれぐれも、自分の班から離れないようにしてください」
「どんな理由があっても、勝手に離れるのは禁止です」
「後日には自由時間もありますが、今日は全員で決められたルートを回ります」
生徒たちは一斉に頷いた。
すると、結衣がまた手を挙げる。
「先生!」
「どうした、田中?」
「お土産を買う時間はありますか?」
先生は少し笑った。
「予定通りに進めば、あります」
「みんな、聞いた!?」
結衣が嬉しそうに叫ぶ。
「全部、私たち次第だよ!」
その言葉に、周囲から笑い声が上がった。
「それはプレッシャーだな……」
「もう誰も遅刻できないじゃん」
みんなが冗談を言い合う中、俺は窓の外へ目を向けた。
庭の木々を太陽の光が照らしている。
柔らかな風が吹き、葉が静かに揺れていた。
その景色を眺めながら、俺は不思議な高揚感を覚えていた。
ここまで俺たちが見たのは、まだホテルだけだった。
けれど、あと少しすれば――
ついに、日本の古都・京都の街を自分の足で歩くことになる。
そして俺は、なぜか思っていた。
今日の午後はきっと――
家へ帰ったあとも、ずっと心に残り続ける思い出の始まりになる。
そんな気がしてならなかった。
第172話を読んでいただき、ありがとうございます!
いよいよ大樹たちは、ホテルを出て京都の街へ向かいます。
ここから始まる古都・京都での時間が、彼らにどんな思い出を残すのか。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!
これからも応援よろしくお願いします!




