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忘れられない景色

カードキーを手に、俺たちは何人かのクラスメイトと一緒にエレベーターへ乗り込んだ。


バスの中と同じように、まだみんなのテンションは高かった。


「部屋からの景色、いいといいな」


悠斗が、ゆっくり変わっていくエレベーターの階数表示を見ながら言った。


「俺は寝心地のいいベッドがあれば、それでいい」


蓮があくびをしながら答える。


「旅行中、ほとんど寝てただろ」


俺が言うと、蓮は平然と答えた。


「だからこそだよ」


「このまま良い習慣を続けたい」


俺は思わず苦笑した。


やがてエレベーターの扉が開き、三階に到着した。


廊下は広く、窓から差し込む自然光に照らされていた。


絨毯が足音を吸収しているせいか、ホテルの中は驚くほど静かだった。


「315号室……」


松がドアの番号を確認しながら歩く。


「ここだ」


カードキーを読み取り機に近づける。


ピッ、と小さな音が鳴った。


ゆっくりとドアが開く。


「うわぁ……!」


俺たち四人は、ほとんど同時に部屋へ入った。


部屋は、想像していたよりずっと広かった。


四つのシングルベッドが綺麗に並んでいる。


それぞれのベッドの横には、小さなランプが置かれていた。


ベッドの向かい側にはテレビと机があり、その奥には午後の日差しを取り込む大きな窓がある。


けれど、俺たちが一番目を奪われたのは――


窓の外の景色だった。


そこからは、京都の街の一部を見渡すことができた。


昔ながらの屋根と現代的な建物が混ざり合い、その向こうには京都を囲む山々が見えている。


「すごい……」


俺は窓へ近づきながら呟いた。


「これ、何時間でも見ていられそうだ」


「それは後でできるだろ」


松が自分のバッグをベッドの一つに置きながら言った。


「今は誰がどこで寝るか決めないと」


悠斗がすぐに手を挙げた。


「俺、窓側のベッドがいい!」


「ダメ」


蓮が即座に反論する。


「俺が先に見つけた」


数秒後には、まるで人生を左右する問題でもあるかのように二人の言い争いが始まっていた。


松が俺を見ると、呆れたように笑った。


「放っておこう」


「どうせ五分もすれば飽きるよ」


そして、本当にその通りになった。


じゃんけんをすることになり、あっという間に決着がついた。


「勝った!」


悠斗が満面の笑みを浮かべる。


「窓側は俺のものだ!」


蓮は大きくため息をついた。


「明日、リベンジだな」


二人が冗談を言い合っている間に、俺は自分のスーツケースを開いた。


母が丁寧に荷物を整理してくれたおかげで、すべてが決まった場所に収まっている。


思わず笑みがこぼれた。


「どうした?」


松が尋ねる。


「いや……」


「母さん、俺よりずっと上手に荷造りしてくれたんだなって思って」


「母親って、みんなそういうものだよ」


俺は頷きながら、服をクローゼットへしまっていった。


その時。


コンコン、と誰かがドアを軽く叩いた。


「はい?」


松がドアを開ける。


そこに立っていたのは、さっきの先生だった。


「みなさん、ロビーに集合するまであと十分です」


「今日の午後の見学に必要なものだけ持ってきてください」


「分かりました」


俺たちはほぼ同時に返事をした。


先生は頷くと、そのまま廊下を歩いていった。


荷物を整理し終えた俺は、鏡の前に立った。


長時間の移動だったのに、制服はまだ綺麗なままだった。


小さなバッグを手に取り、水のボトル、スマートフォン、財布を入れる。


そして、家を出る前に父から借りたカメラも入れた。


「準備できた?」


松が尋ねる。


「できた」


俺たちは部屋を出て、ドアを閉めた。


エレベーターへ向かって廊下を歩いていると、少し先のドアが開いた。


308号室。


ちょうど舞夜、結衣、麻美、美子の四人が部屋から出てきたところだった。


舞夜が顔を上げる。


そして、俺たちの視線がすぐに重なった。


彼女は、もうすっかり見慣れた温かな笑顔を浮かべる。


「ちょうど同じタイミングですね」


「そうだな」


「部屋はどうだった?」


「思っていたよりずっと良かったです」


すると、舞夜の後ろから結衣がいたずらっぽい表情で顔を出した。


「確認しました」


「舞夜はもう五分くらい、ずっと窓の外を眺めてました」


「結衣!」


「だって本当のことだもん」


舞夜は恥ずかしそうに笑った。


「だって……すごく綺麗だったから」


「じゃあ、いつか一緒に見に来ないとな」


俺は、ほとんど考えずにそう言っていた。


舞夜は少し驚いたように目を瞬く。


そして――


優しく微笑んだ。


「はい……私も、そうしたいです」


その会話が続く前に、エレベーターが到着した。


扉がゆっくりと開く。


俺たちは全員、一緒に中へ入った。


金属の壁に映った自分たちの姿を眺める。


その時、ふと思った。


これはもう、ただの修学旅行ではないのかもしれない。


少しずつ。


この旅は、いつか振り返った時に忘れることのできない――


たくさんの思い出を集める時間へと変わり始めていた。

第171話を読んでいただき、ありがとうございます!


京都での旅はまだ始まったばかり。

大輝たちは、これからどんな景色と出会い、どんな思い出を作っていくのでしょうか。


次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!

これからも応援よろしくお願いします!

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