部屋割りの時間
ホテルのロビーは、中に入ってみると外から見た以上に素晴らしかった。
先生たちが荷物の整理を終えるまでの間、俺たちはそれぞれ周囲を眺めていた。
壁の一角には、京都の秋の風景を描いた大きな絵が飾られている。
フロントの近くには小さな鯉の池があり、その姿がロビー全体にさらに穏やかな雰囲気を与えていた。
「きれい……」
舞夜は庭から目を離さないまま、小さくつぶやいた。
「ここに一日中いてもいいくらい」
「まだ京都の街すら見てないのに?」
俺がそう言うと、舞夜は微笑んだ。
「そうだった」
「きっと、もっとたくさん素敵なものがあるんだろうね」
少し離れたところでは、結衣がすでに何人かのクラスメイトと話していた。
「もし庭が見える部屋になった人がいたら、お菓子と交換するわよ」
「また食べ物を通貨みたいに使ってるのか?」
俺が呆れながら言うと、結衣は自信満々に答えた。
「思ってるより便利なのよ」
俺が何か言い返す前に、先生の手を叩く音が響いた。
「みなさん、集まってください」
俺たちは先生の前に半円を作るように集まった。
先生は一冊のファイルを開いた。
「部屋の鍵を渡す前に、いくつか注意事項を確認します」
生徒たちの間から、どこか諦めたようなざわめきが広がった。
「まず一つ目。朝食は午前七時からです。活動は午前八時に開始しますので、時間厳守でお願いします」
何人かの生徒が頷いた。
「二つ目。先生の許可なくホテルの外へ出ることは禁止です。みなさんは学校の代表としてここに来ていることを忘れないでください」
「はーい」
「そして三つ目。午後十時以降は、全員自分の部屋にいること。部屋同士を行き来したり、夜に出歩いたりすることも禁止です」
その瞬間、結衣が手を挙げた。
「質問です」
先生は興味と諦めが入り混じったような表情で結衣を見た。
「……なんですか、田中さん」
「もし部屋に幽霊が出たらどうすればいいですか?」
何人かの生徒が吹き出した。
しかし先生は真剣な表情のまま答えた。
「その場合はフロントに電話してください」
一瞬の沈黙の後、ロビーに大きな笑い声が響いた。
先生自身も、最後には少し笑っていた。
「……では、これで注意事項は終わりです」
先生は改めてファイルに目を落とした。
「これから部屋割りを発表します」
生徒たちはすぐに静かになった。
先生はリストを読み始めた。
「301号室。鈴木、中村、藤本、加藤」
呼ばれた四人が手を挙げ、ルームキーとなるカードを受け取った。
名前は次々と読み上げられていく。
自分の番を待ちながら、俺はちらりと舞夜の方を見た。
彼女も少し緊張しているように見えた。
「308号室。八神舞夜、田中結衣、五条麻美、騎場美子」
結衣が両手を勢いよく上げた。
「やったー!」
「仲のいい友達と全員一緒!」
舞夜は安心したように微笑んだ。
「みんなと一緒でよかった」
四人はカードキーを受け取り、再び俺たちのいる場所へ戻ってきた。
そして、少しして。
「315号室。南大輝、井上松、鈴木悠斗、高橋蓮」
「はい」
俺は呼ばれた仲間たちと一緒に前へ出て、カードキーを受け取った。
松が俺の肩を軽く叩いた。
「どうやら、あと数日間は同じ部屋の仲間みたいだな」
「そうみたいだな」
「俺、いびきはかかないって約束するよ」
「それは実際に寝てみないと分からないだろ」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
全員の部屋が決まると、先生はファイルを閉じた。
「では、三十分ほど部屋で荷物を整理してください」
「その後、再びロビーに集合して昼食を取ります。そして午後から京都市内の見学を始めます」
生徒たちの間に、期待に満ちたざわめきが広がった。
もう疑う余地はなかった。
京都での本当の冒険が――
いよいよ始まろうとしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
ついに部屋割りも決まり、大輝たちの京都旅行が本格的に始まります。
ここから彼らがどんな場所を訪れ、どんな思い出を作っていくのか、ぜひこれからも見守っていただけたら嬉しいです!
次回も応援よろしくお願いします!




