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真矢の答え

真矢は、小さな箱を両手でしばらく持ったまま動かなかった。


見ているだけで、彼女が緊張しているのが分かる。


「……難しい質問じゃないですよね?」


真矢が恐る恐る尋ねた。


結衣は、あまり信用できないほど無邪気な笑顔を浮かべる。


「もちろんだよ」


そして、さらりと続けた。


「全部、運次第だけどね」


「それが全然安心できないんですけど……」


真矢は小さく息を吐いた。


そして一度だけ目を閉じると、箱の中へ手を入れた。


一枚のカードを取り出す。


しばらく、そのカードを見つめていた。


やがて――


ゆっくりとうつむく。


「どうした?」


俺が尋ねると、真矢は深く息を吸った。


「これ……たぶん、私も罠にはめられました」


結衣が小さく拍手をする。


「素晴らしい!」


「自分で読む? それとも私が読もうか?」


「わ、私が読みます!」


真矢は慌てて首を振った。


そして、ほとんど聞こえないような小さな声で読み始める。


「……『今年、一番幸せだった瞬間は?』」


バスの中が、再び静かになった。


俺が引いた質問よりも、ずっと簡単なはずだった。


それなのに――


なぜか、同じくらい答えるのが難しい質問に思えた。


真矢は考え込んでいた。


細い指で、カードをそっと握っている。


「一番幸せだった瞬間……」


彼女は、その言葉を繰り返した。


まるで記憶のどこかから答えを探しているように。


そして。


ゆっくりと顔を上げた。


「……私は」


真矢が微笑む。


穏やかで。


心からの笑顔だった。


「もう、一人で全部を抱え込まなくてもいいんだって……そう思えた日のことだと思います」


誰も、すぐには言葉を返さなかった。


「ずっと……」


真矢は静かに続ける。


「私は、自分の問題は全部一人で乗り越えなければいけないと思っていました」


「誰かに助けを求めることは、弱いことなんじゃないかって」


少しだけ視線を落とす。


「でも……間違っていました」


短い沈黙。


そして真矢は、ほんの少しだけ俺の方へ視線を向けた。


「自分でも、どうやって前に進めばいいのか分からなかった時でも……」


「ずっとそばにいてくれた人たちに出会いました」


「私を、一人にしなかった人たちに」


彼女の視線が、ほんの一瞬だけ俺に向けられた。


それだけだった。


それなのに。


胸の奥が、不思議なほど熱くなるのを感じた。


「その人たちのおかげで……」


真矢は微笑んだ。


「私は、また笑えるようになりました」


「本当に……自分の人生を楽しめるようになったんです」


その後に訪れた沈黙は、さっきまでとは違っていた。


温かい沈黙だった。


真矢の言葉に込められた意味を、誰もが理解していたのだと思う。


すると――


「うわぁ……!」


結衣が胸の前で両手を合わせた。


「すごく素敵!」


真矢の頬が、再び赤くなる。


「結衣……」


「何?」


結衣は感動したような顔のまま言った。


「私、もう少しで泣くところだった」


「大げさです」


「ちょっとだけね」


周りの生徒たちから、自然と拍手が起こった。


中には、楽しそうに口笛を吹く者までいる。


真矢は座ったまま、小さく頭を下げた。


「……ありがとうございます」


そして、恥ずかしそうな表情のまま席に座り直した。


俺は、しばらく何も言えなかった。


彼女は一度も、俺の名前を口にしなかった。


それでも――


その言葉の一部が、俺に向けられたものだということくらい。


俺にも分かっていた。


そんな時だった。


後ろの座席にいた男子生徒が、手を挙げた。


「じゃあ、次は結衣の番だ!」


その瞬間。


バスの中が一斉に盛り上がった。


「そうだ!」


「結衣も答えろ!」


「ズルは禁止!」


結衣が大きく目を見開く。


「えっ、私?」


「ルールは全員共通だ!」


誰かがそう言うと、周囲から笑い声が起こった。


結衣は頬を膨らませる。


「これは陰謀だ……」


そう言いながらも、結衣は大げさなほど真剣な表情で箱を手に取った。


「……分かった」


そして、ゆっくりと立ち上がる。


「これが私の運命だと言うなら……」


「受け入れよう」


一枚のカードを引いた。


ゆっくりと開く。


質問を読む。


そして――


ゲームが始まって以来、初めて。


結衣の満面の笑顔が消えた。


「……え?」


一度。


二度。


結衣は目を瞬いた。


「どうした?」


誰かが尋ねる。


結衣はゆっくりと顔を上げた。


「これ……」


少しだけ、声が震えているようにも聞こえた。


「これ、今までの質問より……もっとひどいかも」


その言葉に、バスの中の全員が一気に興味を引かれた。


「読め!」


「気になる!」


「隠すのは禁止!」


結衣は小さく息を飲む。


もう一度、カードを見る。


そして――


深いため息をついた。


「……分かったよ」


結衣はゆっくりと顔を上げた。


「でも……」


その目には、いつものいたずらっぽい笑顔が少しだけ戻っていた。


「この後、何が起きても……文句は言わないでね?」



この物語で、また一つの章を共に歩んでくださり、ありがとうございます。


皆さんが読んでくださる一ページ一ページ、そして一つ一つの応援のメッセージが、私にとって本当に大きな意味を持っています。

それらが、これからも書き続けていくための大きな励みになっています。


旅はまだ始まったばかりです。

これからも、たくさんの思い出や笑い、そして新たな出来事が待っています。


これから先のページでも、ダイキ、マイヤ、そしてユイの物語に、これからもお付き合いいただけたら嬉しいです。


読んでくださり、そしてたくさんの応援を、本当にありがとうございます!

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