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正直な答え

学校を出発してから、約一時間が経っていた。


窓の外の景色は、今も少しずつ変わり続けている。


高い建物は、もうずっと後ろに残されていた。


今、見えるのは広い田園風景や山々。


そして、小さな町が窓の向こうを次々と通り過ぎていく。


バスの中は――


出発した直後とは、すっかり雰囲気が変わっていた。


生徒たちは通路の前から後ろまで、あちこちで楽しそうに話している。


歌っている者もいれば。


トランプで遊んでいる者もいる。


中には、すでにぐっすり眠っている生徒までいた。


「さて……」


結衣が再び席から立ち上がった。


「次のゲームの時間です」


俺は思わずため息をついた。


「お前、五分くらい静かにしていられないのか?」


「無理」


即答だった。


結衣は後ろの座席の方へ振り返る。


「みなさーん!」


そして、両手を大きく広げた。


「参加者を募集しまーす!」


何人ものクラスメイトが手を挙げる。


「どんなゲーム?」


「すごく簡単だよ」


結衣は楽しそうに笑った。


「一人ずつカードを引くの」


「カードには質問が書いてあって、それに絶対正直に答える」


「その質問、誰が考えたんだ?」


近くの男子生徒が尋ねる。


結衣は胸を張った。


「私」


一瞬。


バスの中が静かになった。


「……それ、怖くない?」


「かなり怖いな」


そんな声が聞こえてくる。


しかし結衣は、まったく気にしていなかった。


星の模様が描かれた小さな箱を取り出す。


「昨日の夜、ちゃんと作っておいたんだよ」


俺は思わず結衣を見た。


「まさか、本当に修学旅行のために質問カードを作ったのか?」


「当然」


結衣は当然のことのように答える。


「どんな状況にも備えておかないと」


……感心すべきなのか。


心配すべきなのか。


俺には判断できなかった。


やがて何人かの生徒が参加することになり、その箱は座席から座席へと渡されていった。


最初の質問は、かなり無難なものだった。


「好きな食べ物は?」


「飼ってみたい動物は?」


「卒業する前に行ってみたい場所は?」


答えるたびに、笑い声やちょっとしたからかいが起こる。


そんな楽しい時間が続いていた。


……ところが。


「大輝」


俺は顔を上げた。


結衣が、例の箱を俺の前に差し出している。


「次は大輝の番」


俺は一枚のカードを引いた。


深呼吸する。


「さて……」


ゆっくりとカードを開いた。


書かれていた質問を、黙って読む。


そして――


俺は固まった。


「何て書いてあるの?」


結衣が、いかにも怪しそうな笑顔を浮かべる。


俺はゆっくりと顔を上げた。


「……これ、書いたのお前だろ?」


「うん」


「分かる」


「早く読んで!」


すると、周りの生徒たちまで騒ぎ始めた。


「読めー!」


「読め、読め!」


完全に逃げ道を失った。


俺は諦めたように息を吐く。


「……『好きな人の、一番尊敬しているところは?』」


一瞬。


バスの中が静まり返った。


全員の視線が、俺に集中しているのを感じる。


「いい質問!」


結衣が嬉しそうに叫んだ。


「答える気はない」


「ルールはルールです」


「俺、そのルールに同意した覚えないんだけど」


「でもカードを引いたよね?」


結衣はにっこり笑った。


「それで参加決定」


周囲から笑い声が起こる。


俺は片手で額を押さえた。


「最初から罠だったのか……」


「正解」


結衣は満足そうに笑った。


「さあ、答えて」


周囲を見回す。


……無理だ。


もう逃げられない。


俺は小さくため息をついた。


「そうだな……」


少しだけ考える。


そして気づかないうちに、俺の視線は真矢へ向かっていた。


真矢も、こちらを見ていた。


俺は慌てて視線を逸らす。


「……いつも、人に優しいところ」


自分でも驚くほど、言葉は自然に出てきた。


「どんな時でも努力をやめないところ」


少しだけ間を置く。


「それから……」


もう一度、真矢の方を見ることはできなかった。


「辛いことを経験しても……また笑えるところ」


バスの中が、再び静かになった。


恥ずかしい答えだったからではない。


……その言葉が、心から出たものだったからだ。


隣から、小さな咳払いが聞こえた。


真矢は、自分の手をじっと見つめている。


頬は、少しだけ赤くなっていた。


結衣は、何とも言えない表情で俺たちを見ていた。


「……すごく素敵な答え」


俺は何も言わなかった。


なぜなら――


心のどこかでは。


俺が本当に、架空の誰かについて話していたのかどうか。


自分でも、よく分からなくなっていたからだ。


そして。


真矢が、なかなかこちらを見ようとしない理由を考えると……


なぜか。


彼女も同じことに気づいていたような気がした。


しかし。


そんな空気を結衣が放っておくはずもなかった。


「よし!」


結衣が突然、手を叩いた。


「次は真矢!」


真矢が大きく目を見開く。


「わ、私ですか?」


「もちろん」


結衣は楽しそうに笑った。


「ルールは全員共通だからね」


真矢はゆっくりと息を吸った。


そして――


そっと手を伸ばし、箱の中へ入れる。


まだ誰も知らなかった。


その一枚のカードに書かれた質問が……


この旅行を、さらに面白いものにしてしまうことを。


第165話を読んでいただき、ありがとうございます。

たった一つの質問が、まだはっきりと言葉にできない気持ちを映し出すこともあります。

さて、真矢はどんな答えを選ぶのでしょうか?

次の話でまたお会いしましょう!

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