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旅の始まり

座席の発表が終わった後、校庭は再び大混乱になっていた。


「スーツケースに名前を付けるのを忘れないでください!」


「一号車の人は右側に一列で並んで!」


「二号車の人は、こちらについてきてください!」


先生たちは休む暇もなく指示を出していた。


その間にも、生徒たちはリュックや荷物を抱えながら、あちこちを行き来している。


「さて……いよいよだな」


俺はスーツケースの取っ手を握り、一号車へ向かって歩き出した。


白い大型バスだった。


窓には少しだけスモークが入っている。


運転手さんは下の荷物入れにスーツケースを積み込み、先生たちは出席者リストを確認していた。


バスのステップを上がると、心地よい冷房の風が迎えてくれた。


車内はとてもきれいだった。


座席には青いシートが使われていて、大きな窓からは外の景色がよく見える。


俺は自分の座席番号を探した。


十八番。


すぐに見つかった。


窓側の席だ。


「悪くないな……」


俺はリュックを上の荷物棚に置き、座席に腰を下ろした。


そこから、生徒たちが次々とバスに乗ってくる様子を見ることができた。


友達と一緒に座りたいからと、席を交換しようとしている生徒もいる。


すでにトランプやボードゲームをリュックから取り出している生徒もいた。


車内は驚くほど賑やかだった。


「大輝!」


俺は声のした方へ顔を向けた。


ユイが大きな笑顔を浮かべながら、通路を歩いてきた。


彼女の席は十七番。


俺の席のすぐ隣――通路側だった。


ユイは、まるで疲れ切っていたかのように、わざと大げさに座席へ身を投げ出した。


「いやー、私って本当に運がいい!」


「俺はそう思わないけど」


「そんなこと言わないでよ」


ユイは楽しそうに笑う。


「ちゃんと大人しくするって約束するから」


俺はじっと彼女を見つめた。


「その約束が、一番信用できないんだよ」


「ひどいなあ。大輝ってば、疑い深いんだから」


俺が何か言い返そうとした時。


通路から近づいてくる足音が聞こえた。


俺は顔を上げた。


そこにいたのは、マイヤだった。


片方の肩に小さなリュックをかけ、指先には座席番号の書かれたチケットを持っている。


彼女は俺たちの前で立ち止まった。


そして、座席の背もたれに書かれた番号を確認する。


十九番。


俺の隣の席だった。


数秒間。


誰も何も言わなかった。


「どうやら……」


マイヤは少しだけ照れたように笑った。


「……旅の隣席になったみたいね」


俺の頬が少し熱くなるのを感じた。


「うん……そうみたいだな」


マイヤはリュックを片付け、俺の隣の席に座った。


二人の間にある距離は、思っていたよりも近かった。


髪がわずかに揺れるたび、彼女の香りがかすかに届く。


俺は慌てて窓の外へ視線を向けた。


なぜか、学校の校庭の景色が普段よりずっと面白く見えた。


「ずいぶん静かね」


マイヤの声で、俺は我に返った。


「え?」


「緊張してるの?」


俺は少し恥ずかしくなりながら笑った。


「……少しだけ」


「私も」


その言葉を聞いた瞬間。


思っていた以上に安心した。


緊張しているのは、俺だけじゃなかった。


その時、ユイが座席から完全にこちらを振り返った。


「なんだか、とってもいい雰囲気ね」


俺とマイヤは同時に顔を上げた。


「どうしたの?」とマイヤが尋ねる。


「別に?」


ユイは肩をすくめた。


「ただ、運命の神様って、すごくいい仕事をするんだなって思っただけ」


「ユイ……」


「なに?」


「始めるなよ」


ユイは両手を上げた。


「私は何も言ってないよ?」


けれど……


その笑顔。


あの笑顔は、言葉よりもずっと多くのことを語っていた。


その時、一号車を担当する二人の先生がバスに乗ってきた。


そのうちの一人がマイクを手に取る。


「皆さん、おはようございます」


先生の声が車内に響いた。


「今回の修学旅行を、ぜひ楽しんでください。出発前に、もう一度出席確認を行います」


少しずつ車内のざわめきが小さくなっていった。


生徒たちはようやく、それぞれの座席に落ち着いた。


先生が一人ずつ名前を呼んでいく。


名前を呼ばれた生徒たちは、それぞれ返事をした。


やがて、先生は出席確認を終え、ファイルを閉じた。


「よし」


先生は満足そうに頷いた。


「全員そろっています」


その直後。


運転手がエンジンをかけた。


ブォン……。


低いエンジン音とともに、バス全体がかすかに揺れる。


すると、生徒たちは自然と拍手を始めた。


スマートフォンを取り出し、出発の様子を撮影する生徒もいる。


窓の外には、まだ校庭に残っている先生たちや家族の姿が見えた。


手を振っている人もいた。


俺は学校の本館へ視線を向けた。


そして……


もう一度、前を見た。


バスがゆっくりと動き始める。


学校の門を少しずつ後ろへ残しながら――


俺は感じていた。


俺たちの物語は今……


新しい一章を迎えようとしているのだと。

第163話を読んでいただき、ありがとうございます。

ついに修学旅行が始まり、新しい思い出と特別な時間が幕を開けました。

次の話でまたお会いしましょう!

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