運命が僕たちを隣に座らせた
先生たちは、生徒たちを列ごとに並ばせ始めた。
……もっとも、予想していた通り。
誰もあまり素直には従わなかった。
「押さないで!」
「私のスーツケース!」
「そのポテトチップス返してよ!」
校庭は修学旅行の出発前というより……
どこかのお祭り会場のようになっていた。
「皆さん、おはようございます」
主任の先生の声がスピーカーから響いた。
その声を聞くと、少しずつ周囲の騒がしさが静かになっていく。
「皆さんがこれほど楽しみにしていることを嬉しく思います。しかし、皆さんはこの旅行の間、学校の代表でもあります」
先生は一度、校庭に集まった生徒たちを見渡した。
「思いきり楽しみ、たくさん学び、そして何より……お互いに気をつけて行動してください」
何人かの生徒が控えめに答えた。
「はーい!」
他の生徒たちは、黙って頷いている。
先生は続けた。
「皆さんも知っている通り、今回の修学旅行では二台のバスに分かれて移動します。各クラスの人数をできるだけ均等にし、先生たちが引率しやすいように振り分けました」
その時、ユイが手を挙げた。
「先生!」
「どうしました、田中さん?」
「バスの座席って、先生たちが決めたんですか? それとも抽選ですか?」
先生は笑った。
「抽選です」
その瞬間。
校庭全体にざわめきが広がった。
「えっ、本当に!?」
「頼むから運がよくあってくれ!」
「友達と一緒になりたい!」
ユイは両手を合わせ、まるで何かに祈るような仕草をした。
「お願いします……運命の神様……」
思わず笑ってしまう。
「いつから運なんて信じるようになったんだよ?」
「三十秒前から」
マイヤが小さく笑った。
先生は手に持っていたファイルを開いた。
「これから順番に名前を呼びます。呼ばれた生徒は前に出て、バス番号と座席番号が書かれたカードを受け取ってください」
一人ずつ、生徒たちの名前が呼ばれていく。
そしてカードを開くたびに、さまざまな反応が聞こえてきた。
「よっしゃ! 友達と一緒だ!」
「うそでしょ……!」
「えっと……この人、誰?」
再び校庭は笑い声で包まれた。
「井上陽斗」
「はい!」
「二号車。十二番の席です」
「よし!」
次々と名前が呼ばれていく。
俺の胸の中には、なぜか妙な期待と緊張が混ざっていた。
別に、そこまで重要なことじゃない。
……少なくとも、そう思い込もうとしていた。
「南大輝」
俺は深く息を吸った。
「はい」
前へ進み、先生のいる机まで向かう。
先生は小さな封筒を俺に差し出した。
「楽しい旅行にしてくださいね、南くん」
「ありがとうございます」
俺はゆっくりと封筒を開けた。
一号車。
十八番。
窓側。
「悪くないな……」
そう呟きながら、俺はユイのところへ戻った。
「ユイは?」
「一号車!」
彼女は目を大きく開いた。
「私も!」
そう言いながら、自分のカードを俺に見せてくる。
一号車。
十七番。
「隣じゃん!」
俺は一瞬、言葉を失った。
まるで運命にからかわれているような気がした。
「そんな顔しないでよ」
ユイは楽しそうに笑う。
「絶対、すっごく楽しい旅になるって!」
「それが一番心配なんだよ」
ユイは声を上げて笑った。
その時、再び先生の声が聞こえた。
「八神マイヤ」
気がつくと、俺は自然と顔を上げていた。
マイヤは落ち着いた様子で机の方へ歩いていく。
封筒を受け取る。
そして、それを開いた。
数秒間。
彼女はその場で動かなかった。
やがて……
ゆっくりと顔を上げる。
離れた場所で、俺たちの視線が重なった。
マイヤも俺と同じくらい驚いているようだった。
彼女はこちらへ歩いてくる。
最初に口を開いたのはユイだった。
「何番だった?」
マイヤは一度、深く息を吸った。
そしてカードを見せた。
一号車。
十九番。
数秒間。
俺たち三人は、誰も何も言わなかった。
沈黙を破ったのはユイだった。
ゆっくりと……
とても大きな笑顔を浮かべる。
それは、俺が何度も見てきた笑顔だった。
そして、その笑顔が意味することもよく知っていた。
――面倒なことが始まる。
「……え?」
「うそでしょ……」
ユイは俺を指差した。
次にマイヤを指差す。
そして最後に、空を見上げた。
「運命の神様、本当にいたんだ!」
俺は顔が熱くなっていくのを感じた。
マイヤは顔を真っ赤にしながら、カードで口元を隠している。
「どうやら……」
彼女は少しだけ視線をそらした。
「……一緒に旅行することになりそうね」
俺は、すぐに返事をすることができなかった。
頭の中に浮かんでいたのは、ただ一つだけだった。
まだ学校を出てもいない。
それなのに……
この修学旅行は、すでに俺が想像していたよりもずっと面白くなり始めていた。
第162話を読んでいただき、ありがとうございました。
修学旅行はまだ始まったばかりですが、どうやら運命は大輝とマイヤのために、すでに何かを用意しているようです。
これから二人をどんな出来事が待っているのでしょうか。
次回もぜひお楽しみに!
また次のお話でお会いしましょう!




