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待ちに待った日

目覚ましが鳴る必要はなかった。


朝六時になる数秒前、俺は自然と目を覚ました。


しばらくの間、自分の部屋の天井を見つめたままベッドに横になっていた。


久しぶりに……


完全に疲れが取れた状態で目を覚ました気がした。


俺は時計の方へ顔を向けた。


「まだ早いな……」


もう一度眠ろうとしてみた。


けれど、無理だった。


眠気よりも、これから始まることへの期待の方がずっと大きかった。


小さくため息をつき、俺はベッドから起き上がった。


カーテンを開ける。


街は、まだようやく目を覚まし始めたところだった。


淡いオレンジ色に染まった空の下、朝の光が少しずつ街並みを照らしている。


「今日が、その日か……」


身支度を済ませ、制服に着替えてから、俺は食堂へ向かった。


母さんはすでに朝食の準備をしていた。


「おはよう」


俺が声をかけると、母さんは楽しそうに笑った。


「おはよう。私より早く起きてきたのね」


「もう眠れなくて」


「そうだと思った」


少ししてから、ネクタイを整えながら父さんもやって来た。


「それだけ今回の旅行を楽しみにしていたということだな」


「……たぶん、そうだと思う」


その直後、目をこすりながら大きなあくびをしたタエコが食堂へ入ってきた。


すでに制服を着て、出発の準備をすべて終えている俺を見ると、妹は少し不満そうに眉をひそめた。


「ずるい……」


「何が?」


「私も旅行に行きたい」


「タエコも二年生になれば、そのうち行けるだろ」


「それまでが長すぎるよ……」


その言葉に、みんなが笑った。


穏やかで。


心地のいい朝だった。


朝食を食べている間、母さんはもう一度、俺の持ち物を確認し始めた。


「お金は?」


「あるよ」


「スマホは?」


「ある」


「充電器は?」


「それもある」


「身分証は?」


「母さん……」


俺が少し呆れたように言うと、母さんは笑った。


「念のためよ」


父さんはコーヒーを一口飲んだ。


「母さんの言うことを聞いておけ」


そして、穏やかな声で続けた。


「大切なものを忘れるより、一度多く確認した方がいい」


俺は頷いた。


二人の言う通りだった。


朝食を終えると、玄関のそばに置いてあったスーツケースを取りに行った。


母さんは俺の制服の襟元を整えてくれた。


「これでよし」


そう言って、満足そうに頷く。


「完璧」


「ありがとう」


父さんが玄関のドアを開けた。


「旅行を楽しんでこい」


そして、少し笑いながら付け加える。


「お土産も忘れるなよ」


「できるだけ頑張るよ」


すると、タエコが腕を組んだ。


「手ぶらで帰ってきたらダメだからね」


「それって、タエコもお土産が欲しいってこと?」


「当然でしょ」


俺は笑った。


「分かったよ」


スーツケースを片手に持ち、もう片方の肩にはリュックをかけて、俺は家を出た。


朝の空気はひんやりとしていて気持ちよかった。


街はまだ静かだった。


けれど、駅へ近づくにつれて、同じ目的地へ向かうらしい生徒たちの姿が少しずつ増えていった。


見分けるのは簡単だった。


みんな制服を着ている。


みんなスーツケースを引いている。


そして何より――


誰もが同じような期待に満ちた表情を浮かべていた。


学校へ向かう途中、何人かのクラスメイトとも顔を合わせた。


「おはよう、大輝!」


「ちゃんと寝られた?」


「まあ、それなりに」


「俺なんて一睡もしてないぞ」


そんな会話に笑い声が混ざっていく。


まるで、今日から修学旅行が始まることを街中が知っているみたいだった。


そして、ようやく学校に到着した時……


俺は数秒間、その場で立ち止まった。


正門の向こうにある校庭は、生徒たちで埋め尽くされていた。


何十人もの生徒が楽しそうに話しながら、自分のスーツケースを並べている。


出発前から写真を撮っている生徒もいた。


すでにお菓子を交換し始めている生徒もいる。


まるで旅行が始まる前から、すでに楽しみを我慢できないようだった。


先生たちはあちこちを歩き回りながら、何とか秩序を保とうとしていた。


けれど……


それは、ほとんど不可能な任務に見えた。


その時だった。


聞き慣れた声が聞こえてきた。


「大輝!」


俺は振り返った。


マイヤが、濃い青色の小さなスーツケースを引きながらこちらへ歩いてくる。


髪を少しだけまとめていて。


その表情には、とても自然な笑顔が浮かんでいた。


その笑顔を見た瞬間だけは……


校庭を包んでいた騒がしさが、すべて遠くへ消えてしまったような気がした。


「おはよう」


「おはよう」


「早かったね」


「たぶん、緊張してあまり眠れなかったんだと思う」


俺は思わず笑った。


「俺もまったく同じだった」


数秒間、俺たちは何も言わなかった。


言葉なんて必要なかった。


お互いの表情を見るだけで……


同じ気持ちを抱いていることが分かったからだ。


しかし、その瞬間。


一つの声が、静かな空気を打ち破った。


「見つけたー!」


人混みの中を駆け抜けながら、ユイが大きく手を振っていた。


まるで、とんでもない宝物でも発見したかのような勢いだった。


「バスに乗る前から二人が一緒にいるって、絶対そうだと思ってた!」


マイヤは少し恥ずかしそうに視線をそらした。


「ユイ……」


「何?」


ユイは不思議そうに首をかしげる。


「私は本当のことを言っただけだけど?」


俺が何か言い返す前に――


その瞬間、一人の先生がマイクを手に取った。


「二年生の皆さん、注目してください! まもなくグループ分けとバスの割り当てを開始します。校庭に留まり、指示をよく聞くようにしてください!」


ざわめきが、少しずつ小さくなっていった。


俺はマイヤと視線を交わした。


修学旅行……


ついに。


俺たちの旅が、始まろうとしていた。

第162話を読んでいただき、ありがとうございました。

修学旅行はまだ始まったばかりですが、どうやら運命は大輝とマイヤのために、すでに何かを用意しているようです。


これから二人をどんな出来事が待っているのでしょうか。


次回もぜひお楽しみに!

また次のお話でお会いしましょう!

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