逃げ続けた男の帰還
誰も、しばらく生徒会室を離れようとはしなかった。
拓海の告白文は、机の上に置かれたままだった。
沈黙はあまりにも重く……
誰も、何を言えばいいのか分からなかった。
最初に口を開いたのは校長だった。
「木箱の中にあったメモが最近書かれたものだとすれば……」
彼はゆっくりと告白文へ視線を落とした。
「拓海は、ほんの数週間前までここにいたことになる」
美月がゆっくりとうなずいた。
「それなら説明がつくわ……」
彼女は小さく息を吐いた。
「数か月前に私がここへ来た時、いくつかの扉が開いていた理由も……物の位置が変わっていた理由も」
それは……
過去の亡霊ではなかった。
拓海は戻ってきていた。
そしておそらく……
いつか誰かが真実に辿り着くことを知っていたのだ。
舞夜は、ずっと告白文を見つめていた。
その手は、まだわずかに震えている。
「分からない……」
彼女は小さく呟いた。
「三年前にこれを書いたなら……」
ゆっくりと顔を上げる。
「どうして、誰にも渡さなかったの?」
坂本先生は視線を落とした。
「真実と向き合うには……」
その声は静かだった。
「何年経っても見つけられないほどの勇気が必要になる人もいるのよ」
誰も答えなかった。
苦しい答えだった。
けれど……
とても人間らしい答えでもあった。
その時だった。
トン……
トン……
扉を叩く、小さな音。
三度の静かなノック。
全員が顔を上げた。
わずかに開いていた扉が……
ゆっくりと動き始める。
一人の人物が、入口に姿を現した。
若い男性だった。
濃い茶色の髪。
そして……
疲れ切ったような表情。
何年も前に着ていた制服とはまったく違う、質素な服を身につけていた。
片方の肩には、小さなリュックを掛けている。
彼の視線は、最初に舞夜へ向けられた。
次に……
机の上に置かれた告白文へ。
そして最後に……
彼はゆっくりと目を閉じた。
まるで……
もう逃げ続ける意味がないと理解したかのように。
舞夜が一歩前へ出た。
声は、ほとんど震えていた。
「……拓海」
男性は、ゆっくりと目を開いた。
三年の月日が過ぎていた。
顔つきは変わっている。
けれど……
間違いなかった。
そこに立っていたのは。
神藤拓海だった。
誰も何も言わなかった。
沈黙を破ったのは、拓海自身だった。
「全部……見つけたんだな」
その声は疲れていた。
挑発もなかった。
誇りもなかった。
ただ……
何年もの間、背負い続けてきた重い罪だけがあった。
校長が一歩前へ出る。
「拓海……」
しばらく沈黙したあと、尋ねた。
「自分の意思で、ここへ来たのですか?」
拓海はうなずいた。
「はい」
そして、深く息を吸った。
「別の学校の生徒たちが、この事件を調べていると聞いた時……」
彼はゆっくりと視線を動かした。
「すぐに、お前たちだと思った」
そして……
真っ直ぐ舞夜を見つめた。
「舞夜が戻ってきたんだと……分かった」
舞夜は目を逸らさなかった。
彼女の中には、あまりにも多くの疑問があった。
あまりにも多くの痛みがあった。
「どうして?」
ただ、その一言だけを口にした。
拓海は拳を強く握り締めた。
「俺は……臆病者だったからだ」
再び、部屋の中を沈黙が包み込んだ。
「まだ止められた時に……」
拓海の声が震える。
「俺には、嘘を止める勇気がなかった」
ゆっくりと、言葉を続ける。
「あの嘘が……蓮の人生を壊した」
誰も動かなかった。
「俺たちの友情も壊した」
拓海はさらに続けた。
「そして……お前たち全員から、当たり前の日々を奪った」
彼はゆっくりと頭を下げた。
「許してほしいなんて言うつもりはない」
「そんな資格が、自分にあるとも思っていない」
しかし……
少しだけ間を置いてから。
拓海は再び顔を上げた。
その目には、涙が浮かんでいた。
「でも……」
全員が彼を見つめる。
「俺は、全部話すために戻ってきた」
その声には、これまでとは違うものがあった。
恐怖ではない。
逃げるための言い訳でもない。
「何一つ……隠さずに」
三年の時を経て。
神藤拓海は……
ようやく、自分自身の言葉で過去と向き合う覚悟を決めていた。
そして私たちは……
三年間、誰も聞くことのできなかった真実を。
今から、彼自身の口から聞くことになるのだった。
第150話を読んでいただき、ありがとうございました!
ついに拓海本人が、舞夜たちの前に姿を現しました。
三年間隠され続けてきた真実は、彼の口から語られることになるのでしょうか。
次回もぜひ読んでください!
また次の話でお会いしましょう!




