この物語を終わらせると決めた者へ
葵が描いた地図は、私たちを二階の廊下の突き当たりまで導いた。
そこには、かつての生徒会室があった。
古い生徒会室の扉は閉ざされていた。
ドアノブには、厚い埃が積もっている。
しかし……
何かがおかしかった。
蝶番だけが綺麗だった。
誰かが、最近になってこの扉を開けたように見える。
校長は坂本先生と視線を交わした。
「少し下がっていてください」
そう言うと、校長はゆっくりと扉を押した。
古い生徒会室には、何年も前の家具がそのまま残されていた。
中央には長い机。
椅子は綺麗に並べられている。
壁には、歴代の生徒会長たちの肖像写真が飾られていた。
すべてが残っている。
何も変わっていないように見えた。
……あまりにも、綺麗に残りすぎていた。
舞夜がゆっくりと部屋の中へ進んだ。
「葵が、この場所を印していた……」
彼女は周囲を見回した。
「きっと……何かがあるはず」
私たちは、それぞれ部屋の中を調べ始めた。
結衣は棚を確認した。
坂本先生は書類棚を調べる。
校長は壁に掛けられた肖像画を一枚ずつ確認していた。
そして私は……
部屋の中央に置かれた大きな机へ近づいた。
その時だった。
何かが目に入った。
机の脚の一つに、小さな傷がついていた。
しかも……
古い傷ではない。
私はしゃがみ込んだ。
床にも、いくつもの擦り傷が残っている。
まるで……
何度も机を動かしていたかのようだった。
「みんな、手伝ってくれ」
私の声に、全員が集まってくる。
そして私たちは力を合わせ、机を数センチだけ横へ動かした。
すると……
床の下から、何かが現れた。
長方形の蓋だった。
床に組み込まれた、隠し扉。
美月が息を呑んだ。
「……こんなものがあったなんて」
彼女は小さく呟いた。
「私も、一度も見たことがない……」
私たちは慎重に蓋を持ち上げた。
その中には……
青い布に包まれた木箱が置かれていた。
そして、その箱の上には一通の封筒があった。
今度は違う。
宛名が書かれていた。
『この物語を終わらせると決めた者へ』
舞夜は震える手で封筒を開いた。
中に入っていたのは、一枚の紙だけだった。
しかし……
それは手紙ではなかった。
告白だった。
しかも、署名がある。
**神藤拓海。**
部屋の中が、一瞬で静まり返った。
舞夜はゆっくりと紙に視線を落とした。
そして……
読み始めた。
「原稿のコピーを盗んだのは、俺だ」
「こんな結末になるなんて、想像もしていなかった」
その言葉は……
まるで、何トンもの重さを持っているかのようだった。
「文学コンテストで勝ちたかった」
「原稿が消えれば、自分の作品が選ばれると思っていた」
結衣が拳を強く握り締めた。
「全部……嫉妬のためだったの?」
舞夜は答えず、再び紙へ視線を落とした。
「だが、葵が原稿の原本を隠した時、すべてが自分の手を離れたことを理解した」
「神崎先生は、真実を話すように俺を説得した」
「俺は拒んだ」
「その後、蓮が現れた」
「そして、疑いが彼に向けられ始めた時……」
舞夜の声が止まった。
続きを読むことができなかった。
彼女は深く息を吸う。
「俺には、それを止める勇気がなかった」
誰も何も言わなかった。
そして……
次の言葉が、完全な沈黙を引き裂いた。
「蓮は、俺の臆病さによって罪を着せられた」
「葵は秘密を抱え込んだ」
「舞夜は友人たちを失った」
「そして俺は……自分を作家と名乗る資格を失った」
告白は、最後の一文で終わっていた。
「もし、いつか誰かがこれを見つけたなら……」
「復讐を求めないでほしい」
「ただ、俺が奪った蓮の名前を……彼に返してほしい」
署名。
**神藤拓海。**
舞夜はゆっくりと紙を下ろした。
彼女の頬を、涙が静かに流れていた。
怒りの涙ではなかった。
安堵の涙だった。
三年の時を経て……
蓮の無実が、ついに証明されたのだ。
しかし、その時だった。
校長が木箱を開いた。
中には……
一つの物だけが入っていた。
新聞だった。
しかも、古いものではない。
最近の新聞。
日付は……
わずか二週間前。
誰も動けなかった。
新聞の上には、黒いインクで書かれたメモが置かれていた。
『拓海が、青龍学園に戻ってきた』
誰も言葉を発しなかった。
告白文は、三年前のもの。
しかし……
そのメモは最近書かれたものだった。
それが意味することは、一つしかない。
拓海は生きている。
そして……
青龍学園へ戻ってきた。
校長はゆっくりと木箱を閉じた。
その表情は、これまでになく厳しかった。
「つまり……」
誰もが彼の言葉を待った。
校長は、ゆっくりと続けた。
「私たちは、この物語の終わりに辿り着いたのではない」
短い沈黙。
そして――
「この告白を書いた人物も……戻ってきたのだ」
生徒会室に、再び沈黙が訪れた。
三年前の真実は、ようやく形を取り始めた。
けれど……
最後の答えは、まだ残されている。
なぜ拓海は戻ってきたのか。
そして……
今、彼はどこにいるのか。
私たちの物語は――
まだ終わっていなかった。
第149話を読んでいただき、ありがとうございました!
ついに明らかになった、拓海の告白。
そして、三年ぶりに彼が青龍学園へ戻ってきたという新たな事実。
物語はまだ終わっていません。
次回もぜひ読んでください!
また次の話でお会いしましょう!




