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逃げ続けた三年間の果てに

誰も言葉を発さなかった。


進藤拓海は、俺たちの前に立ったままだった。


近づこうとはしなかった。


自分を正当化しようともしなかった。


ただ、ゆっくりと息を吸った。


まるでこの瞬間を、三年間ずっと待っていたかのように。


「すべては……原稿が盗まれるより、ずっと前から始まっていたんだ」


その声は落ち着いていた。


けれど、一つ一つの言葉には重いものがあった。


「俺たちが文芸部に入った頃……俺は黒沢蓮を尊敬していた」


八神舞耶がゆっくりと顔を上げた。


拓海は悲しそうに笑った。


「蓮は、俺たちの中で一番だった」


「信じられないくらい、簡単そうに物語を書いていた」


「どれだけ努力しても……」


「結局、俺はあいつの作品を読んで、どうしても追いつけないって思ってしまったんだ」


拓海は、テーブルの上に置かれた古い原稿へ視線を向けた。


「最初は、本当に尊敬していたんだ」


「でも、少しずつ……」


「それは嫉妬に変わっていった」


誰も彼の言葉を遮らなかった。


「葵はいつも、蓮のことを褒めていた」


「先生たちも同じだった」


「学校のコンクールでも、みんなが次の作品を楽しみにしていた」


拓海は苦しそうに笑った。


「俺は笑っていた」


「蓮を祝福していた」


「でも、心の中では……」


「誰かがあいつを褒めるたびに、自分がどんどん小さくなっていくような気がしたんだ」


拓海は視線を落とした。


「ある日、蓮が全国コンクールに出す予定だった原稿を見つけた」


「読んだんだ」


「そして……分かった」


「また、あいつが勝つって」


数秒間、彼は沈黙した。


「そのとき……あの考えが浮かんだ」


「あいつの夢を壊したかったわけじゃない」


「ただ、少しだけ遅らせたかった」


「コピーが数日間なくなれば……」


「蓮はコンクールに参加できなくなる」


「そして、初めて……」


「俺の作品にも、チャンスがあると思った」


舞耶が原稿を強く握りしめた。


「……じゃあ」


「あなたは、ただコピーを隠したかっただけなの?」


拓海はゆっくりとうなずいた。


「ああ」


「まさか、こんなことになるなんて……思ってもいなかった」


彼は深く息を吸い、再び話し始めた。


「でも、葵が俺のしたことに気づいた」


「そして、すぐに分かったんだ」


「誰かが蓮に罪を着せようとするかもしれないって」


「だから葵は、原稿の原本を隠した」


「蓮の作品を守るために」


「そして……蓮自身を守るために」


坂本先生は静かに目を閉じた。


ばらばらだった出来事が、少しずつ一つにつながり始めていた。


拓海は続けた。


「神崎先生も、その夜に真実を知った」


「俺を職員室に呼び出した」


「そして、手遅れになる前にすべてを話せと言った」


その声が、少しずつ震え始めた。


「先生は正しかった」


「俺は……そうするべきだった」


「すべてを話すべきだった」


「でも、怖かった」


「すごく……怖かったんだ」


「友達からの信頼を失うのが怖かった」


「家族を失望させるのが怖かった」


「そして何より……」


「みんなに、自分がどんな人間になってしまったのか知られるのが怖かった」


呼吸を整えるように、拓海は苦しそうに息を吐いた。


「そして……俺が黙っている間に」


「噂は広がっていった」


「疑いは、蓮に向けられた」


「日が経つごとに……真実を話すことが難しくなった」


「そして毎日……」


「俺は、前の日よりも臆病になっていった」


涙が、拓海の頬をゆっくりと流れ落ちた。


「そのあと、文芸部は活動停止になった」


「蓮は学院を去った」


「葵は……笑わなくなった」


「そして舞耶は、誰にも別れを告げずにいなくなった」


拓海は唇を噛みしめた。


「そこでようやく分かったんだ」


「自分の身勝手な選択が……」


「俺が一番大切にしていたものを、全部壊してしまったんだって」


会議室は完全な静寂に包まれた。


誰も彼を許そうとはしなかった。


けれど、彼の話を聞いている者たちの顔に、憎しみはなかった。


そこにあったのは、ただ深い悲しみだけだった。


拓海はゆっくりと顔を上げた。


そして、舞耶をまっすぐに見つめた。


「俺は……お前が俺を許してくれるなんて思っていない」


「今日じゃなくてもいい」


「これから先、ずっと許してくれなくてもいい」


「ただ……」


拓海は一度、言葉を止めた。


「自分の口から、本当のことを聞いてほしかった」


「三年間ずっと……」


「あの日、自分に足りなかった勇気を持てたらいいと思いながら生きてきた」


彼の目から、再び涙がこぼれた。


「もう、逃げ続けたくない」


「自分がしたことの責任を……受け止める時なんだ」

第151話を読んでいただき、ありがとうございました。


三年間逃げ続けてきた拓海は、ついに自分自身の言葉で過去と向き合うことを決めました。


しかし、真実が明らかになったからといって、すべてが終わったわけではありません。


残された人々は、この真実を受け入れ、これからどのように前へ進んでいくのでしょうか。


次回も、ぜひお楽しみに。

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