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書き換えられた記録

重い扉が、金属の軋む音を響かせながら完全に開いた。


中から流れ出してきた空気には、古びた紙と湿った木の匂いが混じっていた。


数秒間――。


誰も、最初の一歩を踏み出そうとはしなかった。


校長先生が照明のスイッチを入れる。


一つ。


また一つ。


天井に並んだ古い照明が、ゆっくりと巨大な部屋を照らしていく。


俺たちの目の前に現れたのは――。


どこまでも続いているように見える、無数の木製の本棚だった。


何千ものファイル。


古い箱。


そして、数え切れないほどの本。


部屋の中だけ、時間が止まっているようだった。


「青龍学園歴史資料保管庫へ、ようこそ」


校長先生が静かに言った。


「ここには、この学園の記憶が保存されている」


坂本先生は、驚いたように部屋を見渡した。


「ここへ入るのは……何年ぶりかしら」


校長先生は部屋の中央に置かれた大きな机へ向かった。


その上には、薄く埃をかぶった記録簿が置かれていた。


校長先生は、それを慎重に開く。


最後に記された署名には――。


ちょうど三年前の日付が残されていた。


校長先生自身の署名だった。


「事件の後……」


校長先生が静かに口を開く。


「二本目の鍵が見つかるまで、この保管庫を閉鎖することにした」


「それ以来、誰も中へ入っていない」


舞夜は、広い部屋を見回した。


「まるで……過去に戻ったみたい」


その間に、結衣が近くの本棚へ歩いていく。


「学園が創立された頃の資料まである……」


「だから、勝手に触らないように」


校長先生は苦笑しながら注意した。


「何か見つけたら、必ず私に知らせてくれ」


やがて――。


校長先生が、一つの箱を棚から取り出した。


箱には、日付が記されている。


『20XX年――文学部事件』


心臓が、大きく鼓動した。


校長先生は、その箱を机の上に置く。


そして、ゆっくりと蓋を開けた。


中には、何冊ものファイルが綺麗に整理されていた。


一番上に置かれていたファイルには――。


黒いインクで、一つの名前が書かれている。


『黒沢蓮』


舞夜が深く息を吸った。


そして、そのファイルを開く。


最初は黙って読み進めていた。


しかし――。


少しずつ、その表情が変わっていく。


最初は驚き。


次に困惑。


そして最後には――。


信じられないという表情になった。


「……そんな」


「これは……ありえない」


俺は舞夜の隣へ近づいた。


そこに書かれていた内容を読む。


記録によれば――。


蓮は内部調査の取り調べで、原稿を盗んだことを自ら認めたことになっていた。


俺は眉をひそめる。


「……手紙の内容と、完全に矛盾してる」


坂本先生がファイルを受け取った。


そして、何ページかを確認する。


数秒後――。


先生は、はっきりと首を横に振った。


「私は、その取り調べに立ち会っていたわ」


「蓮は……絶対に自白なんてしていない」


校長先生がすぐに顔を上げる。


「本当ですか?」


「ええ」


「はっきり覚えているわ」


「何度も質問はされた……」


「でも、蓮が自白したことは一度もない」


再び、部屋の中が静まり返った。


もし坂本先生の記憶が正しいのなら――。


誰かが、公式文書を偽造したことになる。


それは、単なる事務上のミスではない。


事件の事実そのものを――。


意図的に書き換えたということだ。


俺はさらにファイルを確認していく。


その時――。


ある違和感に気づいた。


最初の数ページは、明らかに古い。


紙も黄ばんでいる。


しかし――。


最後の数ページだけ、どこか違っていた。


紙の色が少し白い。


インクも新しい。


俺はその二枚を取り出し、並べてみる。


「……これを見てください」


全員が近づいてくる。


「このページ……」


「同じ時に書かれたものじゃない」


校長先生が眼鏡を直す。


そして、その二枚をじっと見つめた。


顔から、ゆっくりと血の気が引いていく。


「……そんなはずはない」


「この記録を……」


「誰かが書き換えた?」


舞夜が、ゆっくりと顔を上げる。


「じゃあ……」


「あの警告は、本当だったんですね」


誰も答えなかった。


俺たちは、もう理解していた。


この保管庫にある記録を――。


何も考えずに信じることはできない。


なぜなら、ここに保存されているはずの『真実』でさえ――。


誰かによって、慎重に書き換えられていたのだから。


そして、その人物は――。


自分が残した痕跡を消す方法を、完全に理解していた。

第百四十一話を読んでくださって、ありがとうございました。


ついに見つかった、三年前の公式記録。


しかし、そこに残されていたのは真実ではありませんでした。


書き換えられた記録の向こう側に、

いったい誰の意思が隠されているのでしょうか。


次回もぜひお楽しみください。

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