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閉ざされていた扉

翌朝――。


青龍学園のキャンパスは、薄い霧に包まれていた。


空気は冷たい。


いつもなら聞こえてくる生徒たちのざわめきさえ、昨日より静かに感じられた。


ただの気のせいかもしれない。


それとも――。


あと数分で、俺たちが探し続けてきた答えが閉じ込められている場所の前に立つ。


そのことを知っているからだろうか。


舞夜は、俺の隣を無言で歩いていた。


今、どんな気持ちなのか。


聞く必要はなかった。


胸の前で固く組まれた両手が、隠しきれない緊張を物語っている。


一方、結衣は重苦しい空気を少しでも和らげようとしていた。


「これが全部終わったら、私は絶対に大きな昼ご飯を食べるからね」


「調査って、お腹が空くんだよ」


思わず笑ってしまう。


「本当に調査のせいなのか?」


「違うけど、その方が格好いいでしょ」


舞夜が小さく笑った。


ほんの一瞬だった。


それでも、その笑顔だけで、俺たちが背負っている重さが少しだけ軽くなった気がした。


事務棟へ到着すると、坂本先生がすでに待っていた。


腕には一冊のファイル。


腰には、いくつもの鍵が束になっている。


「校長先生がお待ちです」


俺たちはうなずき、先生の後をついていった。


これまでの訪問では通らなかった長い廊下を進んでいく。


壁には、学園の古い写真が何枚も飾られていた。


さまざまな年代の卒業生たち。


運動部の大会。


文化祭。


一枚一枚の写真が、それぞれの物語を残しているようだった。


歩いている途中――。


舞夜が、一枚の写真の前で足を止めた。


三年前に撮影されたものだった。


大勢の生徒たちが、本校舎の前で笑顔を浮かべている。


舞夜は、ゆっくりと写真の中を目で追った。


「……ここ」


そして、写真の隅を指差す。


「蓮よ」


俺たちは近づいた。


確かに、そこには一人の少年が写っていた。


暗い色の髪。


少し恥ずかしそうな笑顔。


その隣には――。


葵がいる。


そして、少し後ろには――。


匠。


三人が、同じ写真の中にいた。


その姿を見ていると、不思議な気持ちになった。


この写真の中では、彼らはまだただの学生だった。


まだ誰も疑われていない。


噂もなかった。


そして――。


彼らを引き離すことになる苦しみも、まだ存在していなかった。


坂本先生も、しばらく写真を見つめていた。


「文化祭の時に撮られた写真よ」


「この数か月後に、あんなことが起きるなんて……」


誰も、それ以上は何も言わなかった。


俺たちは再び歩き始める。


廊下の突き当たりには、校長先生が待っていた。


手には、小さな木箱を持っている。


昨日見たものと同じ箱だった。


校長は俺たちに軽く頭を下げる。


「時間通りに来てくれてありがとう」


そして、木箱を開けた。


中には――。


二本の鍵が並んでいた。


一つは、俺たちが昔の文学部の部室で見つけたもの。


もう一つは、長年にわたって学園側が保管していたもの。


校長は、それぞれの手に一つずつ鍵を持った。


「歴史資料保管庫は、この学園が建てられた時から存在している」


「中には、学園の古い資料や日誌、生活指導に関する記録、そして――」


「まだ電子化されていない資料も保管されている」


校長は、そこで一度言葉を止めた。


そして、静かに続ける。


「三年前の事件以来――」


「この部屋は、一度も開けられていない」


「私自身もだ」


背筋に、冷たいものが走った。


ここは、ただの資料保管庫ではない。


三年間の時間が、そのまま閉じ込められた場所。


いわば――。


時間の止まった箱だった。


校長は歩き始めた。


俺たちは、その後をついていく。


細い石造りの階段を下りる。


地下へ続く階段だった。


一段下りるたびに、空気が冷たくなっていく。


俺たちの足音だけが、石壁の間に何度も反響していた。


そして――。


ついに、俺たちは一枚の巨大な金属製の扉の前へ到着した。


その扉には――。


二つの鍵穴が並んでいた。


どちらも、まったく同じ形をしている。


校長は、片方の鍵を取り出した。


そして――。


鍵穴へ差し込む。


その後、俺を見た。


「南くん」


校長は、もう一つの鍵を俺へ差し出した。


「最後の鍵を回す役目は、君に任せたい」


俺は、その鍵を見つめた。


そして、舞夜を見る。


彼女は小さく笑って、うなずいた。


俺は深く息を吸った。


そして――。


青銅の鍵を、ゆっくりと二つ目の鍵穴へ差し込む。


静寂。


誰も言葉を発しない。


俺は、ゆっくりと鍵を回した。


カチッ。


ほぼ同時に――。


校長も自分の鍵を回した。


その瞬間。


扉の向こう側から、重い機械が動き始める音が響いた。


ゴゴゴゴ……。


金属が擦れ合う音が、地下の廊下いっぱいに広がっていく。


三年間。


ずっと閉ざされていた扉が――。


ゆっくりと開き始めた。


そして――。


暗闇の向こうから。


古い空気が、俺たちのいる廊下へ静かに流れ出してきた。


誰も動かなかった。


誰も口を開かなかった。


ただ、開いていく扉の向こうを見つめていた。


三年間、閉じ込められていた過去が――。


今、俺たちの目の前で、その扉を開こうとしていた。

第140話を読んでいただき、ありがとうございます。

過去を秘めた、今まさに開かれようとしている扉。 その先に隠されたものが、いよいよ明らかになろうとしています。

応援していただけると、とても嬉しいです。 それでは、次回のエピソードでお会いしましょう!

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