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二つの鍵

俺たちは、正午になる少し前に本校舎へ戻った。


誰も話そうとはしなかった。


追跡は、ほんの数秒しか続かなかった。


それでも――。


それだけで、これまでただの予想だったことが確信に変わった。


俺たち以外にも、この事件を調べている人間がいる。


そして、その誰かは――。


いつも俺たちより一歩先を進んでいる。


坂本先生は、俺たちをそのまま校長室へ連れていった。


部屋は広く、濃い色の木製家具が並んでいる。


壁際の棚には、数多くのトロフィーや歴代の卒業生たちの写真が飾られていた。


机の向こうには、一人の男性が待っていた。


六十歳ほど。


完全に白くなった髪。


まっすぐ伸びた背筋。


声を荒らげる必要などないほどの、落ち着いた威厳を感じさせる眼差し。


俺たちが入ると、男性はすぐに立ち上がった。


「……舞夜」


三年という時間が過ぎている。


それでも――。


彼は、舞夜のことを一目で見分けた。


舞夜は小さく頭を下げる。


「お久しぶりです、校長先生」


男性は、少し寂しそうに笑った。


「まさか、こんな形で再会することになるとは思わなかったよ」


それから、俺たちを一人ずつ紹介していく。


そして、俺の番になった。


校長は俺の手を握った。


「君が南大樹くんだね」


「君のことは聞いているよ」


俺は驚いて目を瞬かせた。


「俺のことを……?」


「坂本先生から聞いた」


「君が舞夜を、もう一度笑えるようにしてくれたそうだね」


俺の頬が熱くなる。


舞夜も、明らかに恥ずかしそうに視線を逸らした。


すると、結衣がすかさず口を挟む。


「ほら、やっぱり二人ってお似合いですよね」


「結衣!」


舞夜の顔が一気に赤くなる。


校長まで、思わず小さく笑った。


ほんの一瞬――。


ここが事件の舞台となった場所だということを忘れそうになるほど、普通の学校らしい空気が戻ってきた。


しかし――。


坂本先生が、机の上へ青銅の鍵を置いた。


その瞬間。


校長の笑顔が消えた。


彼は慎重に鍵を手に取る。


そして、数秒間じっと見つめた。


表情が変わっていく。


「……これは、どこで見つけた?」


「昔の文学部の部室です」


俺が答える。


校長は、しばらく何も言わなかった。


やがて、机の引き出しをゆっくりと開ける。


そこから、小さな木箱を取り出した。


蓋を開ける。


中には――。


もう一つの鍵が入っていた。


俺たちが見つけたものと、ほとんど同じ形をしている。


校長は二つの鍵を並べた。


違いはほとんどない。


ただ一つ。


金属の縁に、小さな数字が刻まれていた。


俺たちが見つけた鍵には――。


『1』


そして、校長が持っていた鍵には――。


『2』


誰も、何も言わなかった。


校長は、もう一つの鍵を再び木箱へ戻した。


そして、深く息を吐く。


「……これで分かった」


「なぜ、誰かが君たちをここへ戻そうとしたのか」


舞夜が一歩前へ出る。


「この鍵は……」


「記録保管庫を開けるためのものですか?」


校長は、ゆっくりとうなずいた。


「正確には、少し違う」


俺たちは、一斉に校長を見る。


「学園の歴史資料を保管している、歴史資料保管庫には――」


「二つの独立した鍵が必要なんだ」


「二十年以上前、重要な資料を守るために二重鍵の仕組みが導入された」


「一つは、学園長が管理する」


そして――。


校長は、俺たちが見つけた鍵を見る。


「もう一つは……」


「三年前に消えた」


背筋に、冷たいものが走った。


俺たちが見つけた鍵は――。


三年間、文学部の部室に隠されていた。


まさに――。


あの事件が起きた年から。


校長は、ゆっくりと顔を上げる。


「二つの鍵が揃った今……」


「初めて、あの歴史資料保管庫を開けることができる」


坂本先生が、ほっとしたように息を吐いた。


「では……」


「調査の許可をいただけるんですね」


校長は、数秒間黙っていた。


そして――。


静かにうなずく。


「分かった」


「許可しよう」


しかし、その直後。


校長は、俺たちを見つめた。


「ただし、一つ条件がある」


全員が黙る。


校長は、俺たち全員が自分を見ていることを確認してから続けた。


「中で見つけたものすべてを――」


「そのまま受け入れる覚悟をしてほしい」


「そこに残されているものによっては……」


「君たちが大切に思っている人たちへの見方が、変わってしまうかもしれない」


舞夜は、迷わなかった。


「それでも……」


「私は真実を知りたいです」


俺も、うなずいた。


「俺たちもです」


校長は二つの鍵を手に取った。


そして、ゆっくりと立ち上がる。


「それなら――」


「明日の朝、一番に」


「三年間、閉ざされていた扉を開けよう」


俺たちは校長室を後にした。


廊下へ出る前に、俺はもう一度だけ振り返った。


机の上に置かれた木箱。


その中には――。


三年間、別々の場所に存在していた二つの鍵があった。


あの扉の向こうに、何が待っているのか。


俺には、まだ分からない。


それでも――。


一つだけ確かなことがあった。


俺たちの本当の調査は――。


これから始まる。

第百三十九話を読んでくださって、ありがとうございました。


三年間、別々の場所に眠っていた二つの鍵。


ついに、閉ざされていた扉を開く時がやってきました。


その先に待っているものとは――。


次回もぜひお楽しみください。

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