すべてが始まった場所
「決して変わらない場所がある。
ただ、誰かが戻ってくるのを静かに待っている。」
青龍学園の鉄門が、俺たちの目の前にそびえていた。
舞夜がこの門をくぐるのは、三年ぶりだった。
その表情を見れば分かる。
恐怖ではない。
懐かしさだけでもない。
その二つが入り混じったような、複雑な表情だった。
「大丈夫か?」
俺が尋ねる。
舞夜は数秒間、答えなかった。
「……うん」
嘘だ。
舞夜と知り合ってから、それなりに長い。
だから分かる。
彼女が平静を装っている時の表情くらい。
舞夜は鞄の肩紐を強く握りしめていた。
そして、ゆっくりと息を吸う。
「ここに、もう一度来ることになるなんて……思わなかった」
俺は顔を上げた。
青龍学園は、想像していたよりもずっと大きかった。
赤いレンガ造りの校舎は、昔の文学部の写真に写っていた頃とほとんど変わっていない。
正門から続く道の両側には、大きな木々が並んでいる。
初夏の風に揺れる緑の葉が、まるで長いトンネルのように道を覆っていた。
美しい場所だった。
けれど――。
同時に、ここは一つの嘘が始まった場所でもある。
そして、その嘘によって何人もの人生が壊された。
その時、後ろから声が聞こえた。
「ちょっと! 置いていかないでよ!」
結衣が走ってくる。
その後ろには、現在の文学部のメンバーたちも続いていた。
今回、俺たちが青龍学園へ入ることができたのは、学校同士の文学交流会があったからだ。
表向きは、他校との交流。
文学作品について語り合うための訪問。
誰も、俺たちが本当は別の目的でここへ来たことなど知らない。
俺たちは、物語を交換するために来たんじゃない。
真実を見つけるために来た。
その時――。
短い髪の女性教師が、穏やかな笑顔を浮かべながら校舎から出てきた。
彼女の姿を見た瞬間。
舞夜が完全に動きを止めた。
「……坂本先生」
女性は、舞夜を見つめた。
そして――。
安堵と寂しさが混ざったような笑顔を浮かべる。
「おかえりなさい、舞夜」
その言葉に、誰もすぐには返事をしなかった。
ただ、初夏の風だけが校庭を静かに通り抜けていく。
やがて、坂本先生は俺たち全員へ視線を向けた。
そして、その目が俺のところで止まる。
「あなたが、南大樹くんね」
俺は小さくうなずいた。
「はい」
先生は、ほんの少しだけ笑った。
「この子を、ここまで連れて戻ってきてくれてありがとう」
舞夜は少し恥ずかしそうに視線を落とした。
坂本先生はそんな舞夜を見てから、ゆっくりと校舎の方へ振り返る。
「さあ、ついてきて」
「あなたたちに話さなければならないことが、たくさんあるの」
そして――。
ほんの少しだけ声を落とした。
「でも、その前に……」
「あなたたちが何かを調べ始めたことを、誰かに知られる前に話しておきたいことがあります」
背筋に、冷たいものが走った。
まだ――。
俺たちは校舎の中へ一歩も入っていない。
それなのに。
なぜか、誰かに見られている。
そんな気がしてならなかった。
第百二十九話を読んでくださって、ありがとうございました。
三年ぶりに戻ってきた青龍学園。
懐かしい場所には、まだ語られていない秘密が残されていました。
そして――。
舞夜たちは、ついに過去の真実へと足を踏み入れます。
次回もぜひお楽しみください。




