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それぞれの別れ

青龍学園の午後は、ゆっくりと夜へ向かっていた。


文学部の部室は、学園側の命令によって閉鎖されたままだった。


何年もの間、部員たちを迎えてきた小さな木製のプレート。


その横には、今まで見たことのない紙が貼られている。


『活動一時停止』


舞夜は、数秒間その文字を見つめていた。


こんな言葉を見ることが、これほど辛いことだなんて――。


今まで考えたこともなかった。


少し離れた場所では、葵が廊下のベンチに座っていた。


舞夜の姿を見つけると、顔を上げる。


「舞夜……」


「蓮先輩のこと、何か分かった?」


舞夜はゆっくりと首を横に振った。


「まだよ」


「校長先生が、今も蓮と話しているみたい」


葵は鞄を胸に抱きしめた。


「……怖い」


舞夜は葵の隣に座る。


「私もよ」


二人は、しばらく何も言わなかった。


それから、さらに一時間ほどが過ぎた。


ようやく――。


校長室の扉が開いた。


蓮が坂本先生と一緒に出てくる。


表情は、いつもと変わらないように見えた。


しかし、その目には明らかな疲れが浮かんでいた。


葵がすぐに駆け寄る。


「蓮先輩!」


「どうだったんですか?」


蓮は小さく笑った。


「大丈夫だよ」


「学園側から、いくつか質問をされただけだ」


「それだけ……?」


葵が不安そうに尋ねる。


蓮は数秒間、黙っていた。


そして――。


「俺のことを信じてもらえているかどうかは……分からない」


その答えだけで、舞夜には状況がどれほど深刻なのか分かった。


その時――。


匠がこちらへ歩いてきた。


手には、自動販売機で買ったばかりの温かい缶コーヒーが二本ある。


そのうちの一本を蓮へ差し出した。


「これ」


「きっと疲れてるだろ」


蓮は缶を受け取った。


「ありがとう」


匠は穏やかに笑う。


「こんなこと、すぐに終わるよ」


「きっと大丈夫だ」


その言葉は、とても自然だった。


本当に蓮を心配しているように聞こえた。


だからこそ――。


その言葉の裏に別の意図があるなど、誰も考えなかった。


蓮が少し離れた場所で坂本先生と話し始める。


その間、匠は舞夜と葵のそばに残った。


周囲を確認するように廊下を見渡す。


そして、小さな声で話し始めた。


「一つだけ、分からないことがあるんだ」


舞夜と葵が匠を見る。


「もし蓮が本当に無実なら……」


「どうして誰かが、蓮を犯人にしようとするんだろう?」


舞夜は迷うことなく答えた。


「本当の犯人が、自分から目を逸らすためよ」


「誰かを身代わりにする必要があるから」


匠は少し考えるように黙った。


そして、ゆっくりとうなずく。


「……そうか」


それだけの会話だった。


誰も、この短い会話に特別な意味があるとは思わなかった。


けれど――。


何年も後になって、舞夜は何度もこの言葉を思い出すことになる。


なぜなら、匠は一度もこう聞かなかったからだ。


『蓮が犯人なのか?』


彼が聞いたのは――。


『なぜ誰かが蓮を犯人にするのか?』


まるで最初から――。


本当の犯人が別にいることを知っていたかのように。


夜になった。


四人は、それぞれ別々に学園を後にした。


誰も、他の誰かと一緒には帰らなかった。


疑いが、四人の間に目に見えない壁を作っていた。


まだ、憎しみではない。


誰かを嫌っているわけでもない。


ただ――。


互いを完全には信じられなくなっていた。


そして、その小さな変化こそが――。


四人の関係を少しずつ壊していく最初の一歩だった。


――現在。


舞夜は、手紙の最後のページまで読み終えた。


ゆっくりと、それをテーブルの上へ置く。


部屋には静寂が広がった。


大樹が最初に口を開いた。


「じゃあ……」


「これで全部終わったのか?」


舞夜は首を横に振った。


「いいえ」


「これは、始まりにすぎなかった」


舞夜は、もう一度写真を見る。


そこには、葵、蓮、匠、そして自分が笑っている姿が写っていた。


舞夜の指が、葵の笑顔の上で止まる。


「この後……」


「葵は、いなくなった」


大樹は黙って聞いていた。


「そして、蓮も……」


「それ以来、二人を学園で見ることはなくなった」


「事件も、解決されないまま残った」


三年間。


すべてが、そのままだった。


大樹は、ふと疑問を口にした。


「……この手紙を書いたのは、誰なんだ?」


舞夜は視線を落とした。


「それだけは……」


「まだ、分からない」


窓の外から、雨の音が聞こえ始めた。


大樹は、テーブルの上に置かれた古い封筒を見る。


その裏側。


長い年月の中でほとんど消えかけた、小さな文字が残されていた。


『真実は、ここで終わらない。』


大樹は、ゆっくりと顔を上げた。


「だったら……」


「青龍学園へ行こう」


舞夜は彼を見る。


その言葉には、もう迷いがなかった。


二人は、ようやく理解していた。


これまで彼らがしていたのは、過去を振り返ることだった。


しかし、これからは違う。


三年前に止まった事件を――。


自分たちの手で終わらせる。


そのために、青龍学園へ戻る。


舞夜は静かにうなずいた。


「……ええ」


「真実を見つけましょう」


そして二人は、まだ知らなかった。


その決断が――。


三年間眠っていた事件を、再び動かすことになるとは。

第百二十七話を読んでくださって、ありがとうございました。


四人が笑い合っていた日々は、少しずつ遠いものになっていきました。


それぞれが別々の道を歩き始める中で、

残された謎だけが、静かに時間の中へ消えていったのです。


けれど――。


三年後、その謎を再び追い始める者たちがいました。


次回もぜひお楽しみください。

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