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壊れ始めた文学部

写真はテーブルの上に置かれたままだった。


俺たち三人は、誰一人としてそこから目を離せなかった。


十三歳の頃の舞夜を見るのは、これが初めてだった。


今とはまるで表情が違う。


何の迷いもなく笑っていた。


今の彼女が隠している悲しみの影は、どこにも見当たらなかった。


そして、その隣には葵がいた。


風に揺れる短い髪。


そして、周囲の空気まで明るくしてしまいそうな大きな笑顔。


まさに、舞夜が語ってくれたとおりの少女だった。


「この写真を見るのは、本当に久しぶりだわ」


舞夜は小さな声でつぶやいた。


慎重に写真を手に取る。


親指が、少し傷んだ写真の縁を優しくなぞった。


「もう失くしてしまったと思っていたの」


彼女の瞳には、懐かしさと寂しさが入り混じっていた。

「ほかの二人は誰なの?」


結衣が写真を見つめながら尋ねた。


舞夜はしばらく写真に視線を落としていた。


そして、ゆっくりと指を伸ばした。


最初に指し示したのは、後ろに立つ背の高い男子生徒だった。


「この人が黒沢蓮よ」


「文学部の部長だった人」


俺は改めて写真を見つめた。


ほかの三人とは少し違っていた。


笑ってはいたが、その表情はとても穏やかだった。


腕には一冊のノートを抱えている。


「彼はいつも、そのノートを持ち歩いていたの」


舞夜は懐かしそうに微笑んだ。


「一度も手放しているところを見たことがなかったわ」


「どうして?」と俺は尋ねた。


「最高の物語は、予想もしない瞬間に生まれるからだって言っていたの」


舞夜は小さく笑った。


「そして、その瞬間を忘れてしまうのは、作家として許されないことだとも言っていたわ」


思わず笑みがこぼれた。


確かに、本物の作家が言いそうな言葉だった。


「中庭を歩いている途中で突然立ち止まって、何かを書き始めることもあったのよ」


「みんなは変わった人だと思っていたけれど、本人はまったく気にしていなかったわ」


舞夜の表情は、とても穏やかだった。

結衣は写真に写る最後の人物を指さした。


明るい茶色の髪。


大きな笑顔。


そして、蓮の肩に自然に手を置いている男子生徒だった。


「この人は?」


その瞬間だった。


舞夜の表情が変わった。


さっきまで浮かんでいた笑みが消える。


視線も少しだけ下を向いた。


「彼は...」


言葉が途切れた。


まるで、何と説明すればいいのか迷っているようだった。


しばらくして、ようやく口を開いた。


「進藤匠よ」


部屋の空気が再び重くなった。


「彼も文学部の部員だったの」


「蓮と同じ学年で、私たちより一つ年上だったわ」


俺は眉をひそめた。


「今まで一度も名前を聞いたことがなかったな」


舞夜はゆっくりと写真をテーブルの上に置いた。


そして、小さな声で答えた。


「だって...」


その先の言葉がなかなか続かなかった。


「長い間、もう二度と彼の名前を口にしたくなかったから」


その声には、忘れたい記憶を無理に引き出しているような痛みが滲んでいた。

結衣と俺は顔を見合わせた。


言葉を交わさなくても分かった。


進藤匠という人物が、この物語の中で重要な存在であることは明らかだった。


舞夜は静かに話し始めた。


「最初は、とても優しい人だったわ」


少し間を置く。


「少なくとも、私たちはそう思っていたの」


彼女は写真に視線を落とした。


「彼はいつも私たちの作品を読んでくれた」


「物語の直し方も教えてくれたし、蓮が忙しい時には部活動をまとめることもあったわ」


懐かしい思い出をたどるように、ゆっくりと言葉を続ける。


「新しく入ってきた部員にも、とても親切だった」


結衣は黙ったまま話を聞いていた。


「葵は彼のことを本当に尊敬していたの」


舞夜は小さく微笑んだ。


「いつか、自分も匠みたいな小説を書けるようになりたいって、よく言っていたわ」


その笑みは長くは続かなかった。


「実は、私も彼を尊敬していたの」


彼女の声が少しだけ低くなった。


「青龍学園の中でも、彼は特別な存在だったから」


静かな空気が、再び部屋を包み込んだ。

舞夜はしばらく目を閉じていた。


まるで、思い出したくない記憶を心の奥から引き出しているようだった。


「でも、私たちは大切なことを見落としていたの」


俺は静かに尋ねた。


「何を?」


舞夜はゆっくりと目を開いた。


そこには悲しみが浮かんでいた。


「匠は、勝つことにこだわりすぎていたの」


部屋の空気が静まり返った。


「書くことよりも」


「仲間よりも」


「何よりも、結果を求めていた」


結衣は小さく息をのんだ。


舞夜は写真を見つめたまま続けた。


「当時の私たちは、それを才能への情熱だと思っていたの」


彼女は静かに首を横に振った。


「でも、違った」


その言葉には、はっきりとした後悔が込められていた。


俺は何も言えなかった。


舞夜が誰かについて失望を口にする姿を、これまで見たことがなかったからだ。


それは怒りではなかった。


憎しみでもなかった。


ただ、どうしようもない悲しみだけが残されていた。

舞夜はしばらく黙っていた。


そして、再び手紙を手に取った。


何度も読み返した部分なのだろう。


紙には小さな折り目が残っていた。


彼女は視線を落としたまま、静かに読み始めた。


「『もし今でも進藤匠のことを、誰もが憧れる優秀な生徒だと思っているのなら...』」


声がわずかに震えた。


「『あなたはまだ、本当の彼を知らないということです』」


背筋に冷たいものが走った。


舞夜は続ける。


「『真実は、葵が姿を消した日から始まったわけではありません』」


部屋の空気が張りつめていく。


「『それは数か月も前から始まっていました』」


彼女は一度言葉を切った。


そして、最後の一文を読み上げた。


「『誰かが、仲間よりも才能のほうが大切だと考えるようになった、その日から』」


舞夜はゆっくりと手紙をテーブルの上に置いた。


そして、静かに目を閉じた。


「その時だったの」


かすかな声だった。


「文学部は、私たちが物語を書くことを学ぶ場所ではなくなった」


彼女は小さく息を吐いた。


「私たちがお互いを傷つけ始めた場所になってしまったの」


誰も言葉を発することができなかった。


静まり返った部屋の中で、その言葉だけが重く響いていた。

第百十一話を読んでくださって、ありがとうございました。


一枚の写真によって、新たな人物たちの姿が明らかになりました。


そして、かつて居場所だった文学部は、少しずつその姿を変えていきます。


次回もぜひお楽しみください。

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