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写真に残された手がかり

「葵を最後に見た人物だった」


舞夜の言葉が静かな部屋に響いた。


誰もすぐには言葉を返せなかった。


重苦しい沈黙が流れる。


その静けさの中で、キッチンの冷蔵庫が発する小さな音だけがかすかに聞こえていた。


最初に口を開いたのは結衣だった。


「その人は、どうなったの?」


舞夜はゆっくりと首を横に振った。


「分からないわ」


視線を手紙に落とす。


「すべてが終わった後...彼は青龍学園から姿を消したの」


俺は思わず聞き返した。


「姿を消した?」


「ええ」


舞夜は小さくうなずいた。


「誰も彼を見なくなったの」


短い沈黙が流れた。


「学校の説明では、別の学校へ転校したことになっていたわ」


彼女の指先がわずかに動いた。


「でも...」


言葉が途切れる。


「どこへ行ったのかを知っている人はいなかったの」


部屋の空気はますます重くなっていった。

舞夜は再び手紙を手に取った。


そして、静かに続きを読み始めた。


「『この名前を見れば、きっと多くの記憶がよみがえるでしょう』」


彼女の声だけが部屋に響いていた。


「『でも、最後まで思い出してください』」


紙を持つ指先にわずかな力が入る。


「『蓮がすべてを壊したわけではありません』」


俺は思わず眉をひそめた。


舞夜はそのまま読み続けた。


「『彼は間違いを犯しました』」


「『しかも、とても大きな間違いを』」


結衣も黙ったまま手紙を見つめていた。


「『それでも、彼はすべてが最悪の結末を迎えるのを止めようとした数少ない人の一人でした』」


部屋の空気が変わったような気がした。


そこに書かれていた内容は、俺たちが想像していたものとはまったく違っていた。

「つまり...」


俺は慎重に言葉を選んだ。


「蓮がすべての原因だったわけじゃないのか?」


舞夜は深く息を吸った。


「分からないわ」


そう答えるまでに、少し時間がかかった。


「この手紙は、そうじゃないと言っているように見える」


彼女は視線を手紙に落とした。


「でも、完全に彼を擁護しているわけでもないの」


結衣は腕を組みながら考え込んでいた。


「まるで、この手紙を書いた人が、自分で答えを見つけてほしいと思っているみたいだね」


舞夜は小さくうなずいた。


「ええ」


短い返事だった。


「きっと、そういうことなんだと思う」


しばらく誰も口を開かなかった。


手紙に書かれていることを理解すればするほど、新しい疑問が次々と生まれてくる。


真実に近づいているはずなのに、その輪郭はますます曖昧になっていた。

しばらくして、俺は舞夜に尋ねた。


「舞夜は、蓮のことをよく知っていたのか?」


彼女は顔を上げた。


すると、どこか懐かしそうな笑みが浮かんだ。


「少しだけね」


彼女は静かに語り始めた。


「私たちより一学年上だったの」


「いつも図書室にいたわ」


結衣が興味深そうに身を乗り出した。


「本が好きだったの?」


舞夜は小さく笑った。


「もちろん、それもあったと思う」


「でも、一番好きだったのは物語を書くことだった」


彼女は少しだけ遠くを見るような目をした。


「普段はあまり話さない人だった」


「だけど、一度話し始めると、みんな自然と耳を傾けていたの」


「どうして?」と俺は尋ねた。


舞夜の表情が少し柔らかくなった。


「素晴らしい物語を書いていたからよ」


その言葉には、確かな尊敬が込められていた。

「葵は、蓮のことをとても尊敬していたの」


舞夜は静かに続けた。


「文学部に入ったのも、彼の影響だったわ」


結衣は優しく微笑んだ。


「そんなにすごい人だったんだね」


「ええ」


舞夜はうなずいた。


「葵はよく言っていたの」


彼女は少しだけ当時を思い出すように目を細めた。


「蓮には、悲しい結末の中にも美しさを見つける力があるって」


部屋の空気が少しだけ和らいだ。


「面白そうな人だね」


結衣がそう言うと、舞夜は小さく笑った。


「本当に不思議な人だったわ」


しかし、その笑顔はすぐに消えた。


「とても理解しにくい人でもあったの」


彼女は視線を落とした。


「何日も部活に来なくなることがあったのよ」


「でも、突然戻ってきて、何事もなかったように振る舞うの」


「理由を聞いても、何も話さなかった」


俺たちは黙って話を聞いていた。


誰も彼に理由を尋ねようとはしなかった。


それが、黒沢蓮という人物だったのかもしれない。

舞夜はゆっくりと手紙をテーブルの上に置いた。


しばらくの間、誰も言葉を発しなかった。


やがて、彼女は静かに顔を上げた。


「まだ、話していないことがあるの」


結衣が首をかしげた。


「どうしたの?」


舞夜は深く息を吸った。


「今朝、この手紙を最後まで読んだ後...封筒の中に別のものが入っていることに気づいたの」


そう言うと、彼女は再び封筒を手に取った。


「手紙と一緒に入っていたわけじゃないの」


「紙の間に隠されていたのよ」


彼女は慎重に封筒の中へ指を入れた。


そして、小さな長方形のものを取り出した。


写真だった。


舞夜はそれを壊れ物を扱うような手つきで、ゆっくりとテーブルの上に置いた。


結衣と俺は自然に身を乗り出した。


そこには、青龍学園の制服を着た四人の生徒が写っていた。


俺はすぐに舞夜を見つけた。


舞夜に抱きついている短い髪の少女が、きっと葵なのだろう。


しかし、俺の視線はその後ろに立つ一人の男子生徒で止まった。


背が高く、腕にはノートを抱えていた。


穏やかな表情を浮かべている。


写真を裏返すと、少し色あせた青いインクで一つの文章が書かれていた。


「手遅れになる前に、彼を探して」


その下には、一つの名前が記されていた。


黒沢蓮。


その名前が、静かな部屋の中に重く響いた。

第百十話を読んでくださって、ありがとうございました。


一枚の写真が、新たな手がかりを残していました。


三年前の真実にたどり着くための旅が、今、始まろうとしています。


次回もぜひお楽しみください。

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