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最後の目撃者

舞夜はしばらく動かなかった。


手紙の紙はテーブルの上に置かれていたが、彼女の視線はそこから離れなかった。


まるで、その先にどんな真実が隠されているのかを知るのが怖いかのようだった。


結衣は何も言わなかった。


ただ、静かに舞夜の隣に座っていた。


時には、言葉よりも沈黙のほうが相手を支えることができる。


しばらくして、舞夜はゆっくりと息を吸った。


「続きを読むわ」


その声はまだ少し震えていた。


けれど、そこには別の感情も混ざっていた。


決意だった。


彼女は次のページを手に取った。


そして、静かに読み始めた。


「『きっと、あなたは起きた出来事のすべてを自分のせいだと思っているでしょう』」


舞夜の表情がわずかに曇った。


「『だって、あなたは昔からそういう人だから』」


部屋の空気が静かに張りつめていく。


「『他人の痛みまで、自分一人で背負おうとしてしまう人だから』」


舞夜はそっと唇をかみしめた。


その言葉は、彼女のことをあまりにもよく理解していた。

舞夜は読み進めた。


「『でも、本当に葵に何が起きたのかを知りたいのなら...』」


彼女は小さく息をついた。


「『まずは、自分を責めることをやめてください』」


一筋の涙が再び頬を伝った。


今度は隠そうともしなかった。


しばらくの沈黙の後、舞夜が小さな声でつぶやいた。


「この三年間...ずっと考えていたの」


彼女は視線を落とした。


「もし、あの日もっと話をしていたら」


「もし、一緒に帰っていたら」


「もし、何かがおかしいって気づいていたら」


言葉が途切れた。


結衣ははっきりと首を横に振った。


「そんなふうに考え続けちゃだめだよ」


「もし違う行動をしていたらなんて、考え始めたら終わりがないから」


舞夜は悲しそうに微笑んだ。


「分かってるわ」


小さな返事だった。


「でも...心って、いつも理屈どおりには動いてくれないのよね」


俺も結衣も何も言えなかった。


誰かを大切に思うからこそ生まれる罪悪感もある。


そして、そんな後悔ほど手放すのが難しいのかもしれなかった。

舞夜は再び手紙に目を向けた。


そして、静かに続きを読み始めた。


「『葵は助けを求めていました』」


その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず顔を上げた。


舞夜は視線を落としたまま読み続ける。


「『一度だけではありません』」


「『最初の失敗で諦めたりもしませんでした』」


「『大人に助けを求めました』」


「『同級生にも相談しました』」


彼女は小さく息を吸った。


「『そして、自分の苦しみを言葉にできなくなった時には、文章にして書き残しました』」


背筋に冷たいものが走った。


「つまり...誰かは知っていたってことか」


思わず口から言葉がこぼれた。


舞夜はゆっくりとうなずいた。


「そうみたいね」


結衣は眉をひそめた。


「それなのに、どうして誰も助けなかったんだろう」


誰も答えを持っていなかった。

舞夜はゆっくりと目を閉じた。


何かを思い出しているようだった。


長い沈黙が流れる。


「今なら分かる気がする」


彼女は小さな声でつぶやいた。


「何が?」と俺は尋ねた。


舞夜はゆっくりと目を開いた。


「葵は、ときどき休み時間になると姿を消していたの」


結衣が驚いたように顔を上げた。


「どこへ行っていたの?」


「分からないわ」


舞夜は首を横に振った。


「私が聞いても、『大したことじゃないよ』って笑っていたから」


彼女の声が少しずつ震え始めた。


「何度も理由を聞いたの」


「でも、いつも話を変えられてしまった」


両手が小さく震えていた。


「私は、ただ心配をかけたくなかっただけだと思っていた」


言葉が途切れる。


そして、彼女は唇をかみしめた。


「まさか、助けを求めていたなんて思わなかった」


結衣は静かに視線を落とした。


「きっと...とても孤独だったんだね」


舞夜は何も言わなかった。


ただ、静かにうなずいた。

しばらくして、舞夜はテーブルの上に置かれていた最後の一枚を手に取った。


それまでのページとは少し違っていた。


何度も開いたり閉じたりしたような折り目が残っていたのだ。


紙の端には小さな傷も見える。


舞夜は指先でその紙をゆっくりとなぞった。


「このページが...」


彼女は言葉を途中で止めた。


「昨夜、私が最後まで読めなかった理由なの」


結衣と俺は黙ったまま彼女を見つめた。


舞夜はゆっくりと顔を上げた。


目はまだ赤く腫れていた。


けれど、そこには悲しみ以外の感情もあった。


恐怖だった。


心の奥から湧き上がるような、深い恐怖だった。


「ここに...」


彼女は小さく唇を震わせた。


「ある名前が書かれているの」


部屋の空気が一気に張りつめた。


その名前が、彼女にとって特別な意味を持っていることは明らかだった。

舞夜は視線を落とした。


そして、手紙の最後の一文を読み上げた。


「『本当に真実を知りたいのなら、黒沢蓮を探してください』」


部屋の中の空気が凍りついたように感じた。


俺は思わず眉をひそめた。


「黒沢...蓮?」


舞夜はゆっくりとうなずいた。


「青龍学園文学部の元部長よ」


短い沈黙が流れた。


結衣は困惑した表情を浮かべていた。


「その人が、どうして手紙に書かれていたの?」


舞夜はすぐには答えなかった。


指先がわずかに震えていた。


「分からないわ」


小さな声だった。


「でも...」


彼女は唇をかみしめた。


「手紙には、もっと重要なことが書かれていたの」


俺は無意識に息をのんだ。


舞夜はゆっくりと顔を上げた。


そして、かすれるような声で言った。


「蓮は...葵を最後に見た人物だったの」


誰も言葉を発することができなかった。


部屋の中には、重苦しい沈黙だけが残されていた。

第百九話を読んでくださって、ありがとうございました。


三年前に途切れた物語は、新たな名前によって再び動き始めました。


そして、その人物こそが、隠されていた真実へとつながる鍵なのかもしれません。


次回もぜひお楽しみください。

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