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四、 黄金の海
今朝も、厳は一人、錆びついた第五十丸の舵を握り、夜明け前の海へ出た。遮光コンタクトをつけた新人類の若い漁船たちが、海面の熱データ(IR)を読み取りながら、ものすごいスピードで厳の船を追い抜いていく。彼らの瞳は、暗闇でもサーチライトのようにギラギラと輝いているように見えた。
厳はポケットから翻訳ARゴーグルを取り出し、しばらく見つめてから、容赦なく潮風の中に投げ捨てた。プラスチックの塊が水面に落ちて消える。目の前に広がったのは、ハイテクなデータに汚されていない、ただ静かで、どこまでも深い、昔ながらの黒い海だった。
東の空から、ゆっくりと太陽が昇ってくる。新人類にとっては「強烈なUVノイズの塊」でしかないその暴力的な光が、旧人類である厳の網膜には、ただ圧倒的に、黄金色に輝く美しい「朝焼け」として映し出された。
「綺麗じゃねえか。これが見えねえあいつらの方が、よっぽど可哀想だ」
厳は小さく笑い、新人類の魚群探知機には映らない、自らの四十五年の命が刻んだ「RGBの勘」だけを頼りに、誰もいない静かな海へと、ゆっくりと網を投げ入れた。時代との距離がどれだけ離れようとも、彼が愛した海の色だけは、最後まで裏切らないと信じて。




