三、 追いついた科学
しかし、二〇二六年の今、四十五歳になった厳は、その「もがき」すらも限界を迎えていることを、薄々悟り始めていた。
どれだけ旧人類の強みを活かそうとしても、彼らが売る魚を買い付ける市場、流通を支えるトラック、燃料を補給するドック、そのすべてのインフラが「新人類のシステム」で埋め尽くされている。メーカーが作る最新の船底防汚塗料は、新人類の目でしか確認できないUVの劣化サインを放つため、厳たちの船の底がいつフジツボでダメになるか、自分たちの目では予測すらできない。
何より残酷だったのは、厳たちの自慢だった「勘」の領域にまで、新人類の科学が追いついてきたことだ。あの絶田のような天才たちが基礎を築いた、極限断熱と超高精度な光学自動運転ドローンが海を飛び交い、厳たちが命がけで見つける漁場を、新人類の船が無人で、かつ完璧に荒らしていく。科学は、旧人類に残された最後の聖域さえも、データとして効率的に踏み荒らしていった。
「厳、もう潮時かもしれないな……」
かつての凄腕の仲間たちが、一人、また一人と船を降り、新人類の観光客を乗せる「RGB限定のレトロ遊覧船」の船長へと転職していった。
「見えない不便さ」を、新人類の富裕層に「ノイズのない癒やし」として切り売りする仕事だ。それも一つの生き方だと分かってはいるが、漁師としてのプライドが、厳の足を鈍らせた。




