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古き三色の静寂と、過彩の奔流  作者: 海内裏
第四話:【日出(にちしゅつ)の藍調(らんちょう)、不織(ふしょく)の残り波】

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一、 RGBの海

網野厳アミノ ゲンが十代の頃、この海はまだ「全員にとって同じ色」をしていた。

遺伝子ワクチンの普及やウイルスの変異が始まる前、厳は親父の船を受け継ぎ、網元としてこの港を沸かせていた。彼の最大の武器は、海面のわずかなきらめき、波のうねり、風の匂いから魚の群れの居場所を正確に言い当てる「山立て」の技術だった。まだ水平線の彼方に潜む命の気配を、五感だけで手繰り寄せる。「厳の目は、ソナーより正確だ」そう仲間から慕われ、彼の周りには同じように海を愛する同世代の、気骨ある漁師たちが集まっていた。彼らにとって、海はRGBの美しい純粋な青であり、そこには命と命の、対等で泥臭いやり取りが確かに存在していた。

しかし、ニ十代半ばを過ぎた頃、世界は一変した。気づけば、他の地域の漁船に乗り込む若い漁師たちは、全員が「新人類」に代わっていた。彼らにとって、海は厳たちが見ているような単純な青い水ではなかった。新人類の漁師の目には、クジラや大型魚が泳いだ後に残るぬるい水の帯――赤外線(IR)が描く熱の足跡――や、紫外線(UV)を反射して妖しく光るプランクトンの塊が、海面にネオン看板のようにくっきりと見えていた。彼らは、厳たちが長年の勘で必死に探していた魚群を、ただ「目視」で、百パーセントの確率でピンポイントで仕留めていった。

「厳さん、まだそんな古い勘に頼って、当てずっぽうの網を引いてるんですか?」

市場のセリ場を仕切る新人類の若いスタッフたちは、冷めた熱(IR)を放ちながら厳たちを鼻で笑った。市場のシステムも、新人類の視覚に最適化されたUVインクの規格に変わり、旧人類の厳たちにはセリの電光掲示板の微細な文字すら、特殊な翻訳ARゴーグルがなければ読み取れなくなっていった。

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