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青白い液晶と誓いの指

天井の大きな扇風機が、生ぬるい空気をかき混ぜているだけだった。異国の陽光を吸い込んだ『水生魔導博物閣』は、冷房の恩恵を拒むようにじっとりと暑い。見たこともない極彩色の魚たちが、濁ったアクリル越しに私たちを嘲笑うかのように横切っていく。

喧騒から逃れるように腰を下ろした、色あせたベンチ。

そこで私たちは、互いの薬指に約束を滑り込ませた。

銀色の輪が指の付け根に落ち着いた瞬間、視界が歪んだ。

アスファルトの照り返し、足裏に伝わる自国の土の感触、私とマーレ様、二人で繋いだ天啓の歩杖の震え。あの日から今日までの断片が脳裏を駆け抜ける。


「……大丈夫?」


湿り気を帯びた声に、意識が現在(いま)へ引き戻される。覗き込んできた彼女の瞳には、異国の光が細かく跳ねていた。


「なんでもないよ。ちょっと、思い出してただけ」


無理に作った笑みを見透かしたのか、彼女はただ優しく微笑み、飲み物を買いに席を立った。

遠ざかる背中を見つめながら、私は静かに拳を握る。この先、どんなに険しい坂道が待っていようとも。この手を離さず、彼女を光の中へ連れて行く。

心の中で立てた誓いは、湿った風に溶けることなく、指元の銀色に深く刻まれた。


戻ってきた彼女と、一つの魔導通信機の画面を二人で覗き込む。


「……こんな感じでいい?」


私と彼女で不安げに指先で画面をなぞりながら、結婚の挨拶文を考える。慣れない言語の羅列。液晶の青白い光が、彼女の真剣な横顔を冷たく照らし出している。


「丁寧すぎる気がするけど、失礼があるよりはいいかな。……というか、こんな長い文章、本番で噛まずに言える自信がないよ」


情けない弱音を吐くと、彼女は悪戯っぽく笑い、私の脇腹を軽く肘で突いた。


「練習あるのみ、でしょ?」


そう言って再び画面を操作し始めた彼女の横顔を、私は盗み見る。頬が緩みそうになるのを必死に堪えたが、込み上げる愛おしさまでは隠せなかった。


今夜は宿で最後の予行演習だ。

明日は彼女の両親との対面。そして、その先にはテトラ・コニカル島への旅行が待っている。

異国の風が、重たい空気の隙間を吹き抜けた。


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