蒸発した再会の台本
短くてすみません
早いものであれから一ヶ月が過ぎようとしていた。
指折り数えた日々がようやく終わりを告げ、私は再び異国の土を踏んだ。背負い袋の中には、彼女の家族への贈り物で溢れている。代わり映えのしない日常を脱ぎ捨て、新婚旅行という華やかな未来へ飛び込む準備は万端だった。
だが、異国の扉が開いた瞬間、期待という熱風は一気に冷え切った。
視線が無意識に「その姿」を探す。汗ばんだシャツで駆け寄ってくる彼女。一ヶ月ぶりの抱擁。そんな映画のワンシーンのような再会を、疑いもしなかった。しかし、視界を埋め尽くしたのは見知らぬ名前を掲げたツアーガイドの群れと、容赦ない喧騒だけだ。
『今どこ? 着いたけど近くにいないの?』
焦燥を込めて送ったメッセージ。数分後、魔導通信機が短く震えた。
『そんな約束してたっけ?』
画面に並んだ文字は、あまりに簡潔だった。
「察する」文化なんて、この国の太陽の下では一瞬で蒸発してしまう。俺が勝手に描いていた再会の台本は、一文字目から書き直しを命じられた。
「……そうだよな。ここは異国だ」
苦笑いと一緒に吐き出した溜息は、熱気に混じって消えた。
予定調和なんて何一つない。だからこそ、私はこの国に、彼女に、惹かれたんだった。
独り、魔導馬車の呼び込みを捌きながら、私は予約した宿へと向かう。再会の舞台は、もう少し先になった。




