1200kmの足跡、空への助走
ステラ・マリス大聖堂の鐘の音が、薄青い山気を震わせて響き渡る。
その音は、私の旅に幕を引く慈悲深い宣告だった。
1200kmの果て。待ち望んでいたはずの響きは、不意に鼻の奥を突くような、ちくりとした寂寥を連れてくる。
本堂の脇。数多の巡礼者たちが遺していった杖の列に、私の「相棒」を立てかけた。
手のひらに硬いタコを作り、泥にまみれ、私の全体重を預け続けてきた一本の木。指先を離れた瞬間、不思議なほど身体がふわりと軽くなった。
「これだけやったんだから」と自分を縛り付けていた、錆びついた足枷。それはいつの間にか、跡形もなく霧散していたのだ。
振り返れば、喉が焼けるような峻険な坂も、孤独に震えた雨の夜も、すべてはこの瞬間に辿り着くための「巡礼の糧」だったと思える。
「大聖女マーレ様。……見ていてくれましたか。
1200km。私の足は、まだ動きます。私の心は、もう折れません。
この物語の続きを、どうか、その目で見届けていてください」
溢れてくるのは、祈りの言葉ですらなかった。ただ、静かな、熱い感謝の念が胸の奥で渦巻いている。
私はもう、以前の私ではない。
この険しい地を踏破したのだ。これから先、どんな嵐が吹き荒れようとも、私は私の足で立ち続けられる。根拠などいらない。足の裏に刻み込まれた、拍動するようなこの痛みこそが、何よりも揺るぎない「自分への証明」だった。
私はステラ・マリス大聖堂を後にした。
背負っているのは、もう重い過去ではない。明日という名の、淡い光だ。
二週間後。
私はこの山を、群青の空へと変えるために――魔法学校へと飛び立つ。
第一部・聖地巡礼編、完結です。1週間程度の準備期間を経て、第二部・魔法学校編が始まります




