再会
この旅の終わりも近い。
あの雨の日、休憩所で別れた青年の言葉を、私は時折思い出していた。
「一日30kmは歩きたいんですよ」
そう言って颯爽と去っていった彼の背中は、歩みの遅い私にとって、到底追いつけない「理想」の象徴だった。
ところが、事実は小説よりもずっと、間が抜けている。
目指していた宿の少し手前。ふらりと立ち寄った無料宿泊所で、私はその「理想」と再会した。
「……え、なんでここにいるの?」
思わず、敬語を忘れて声が出た。
そこにいたのは、あのストイックなはずの彼だ。だが、その顔には雨の中の悲壮感など微塵もなく、まるで実家の居間にいるかのように寛ぎきっている。
「いやぁ、ここ、めちゃくちゃ居心地がいいんですよ。気づいたら数日経ってました」
彼は照れくさそうに笑った。
あんなに熱く語っていた「一日30km」の誓いは、無料宿泊所の快適さという誘惑の前に、あっけなく霧散していたらしい。
私は呆れ、それから猛烈に可笑しくなった。
自分は必死に彼を追いかけるような気持ちで足を動かしてきたのに、当の本人はここで「沈没」していたのだ。
けれど、そのおかげで私たちはまた出会えた。
彼が予定通りに進んでいれば、もう二度と交わらなかったはずの道。
大聖女マーレ様が引き合わせた縁というよりは、宿泊所の布団の魔力が引き寄せた、なんとも人間臭い再会。
「もうすぐ宿ですけど、コーヒーくらい飲んでいきます?」
彼の誘いに、私は笑って荷物を下ろした。
予定通りの距離を歩くことよりも、ここで彼と笑い合う時間の方が、今の私にはずっと必要な「修行」のように思えた。




