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エルフの国

「全員馬車を降りろ!侵入者め!」

馬車の外から聞こえた怒号は、明らかに僕たちに放たれたものだった。

「ヘルン、どうする?」

フィリアが珍しく少し強ばった顔で聞いた。

「無駄に抵抗しても不信感をかうだけだ」

「ここは従おう」

僕たちは両手を上げながら馬車を降りていった。

「え、なにこれ」

気がつけば、馬車諸共、僕らは数十人の兵士に囲まれていた。

皆、長い耳と白い肌、艶やかな金髪をしている。

「エルフの森に何用だ、人外め」

兵士たちの隊長と見られる男が言った。

「お前のようなバケモノを我らの森に入れる訳にはいかん」

人外、バケモノ、言われてみればそうかもしれない。

もはや人間なのは見た目だけ。

種族も、能力も、僕は死神に染まっている。

そして、無数の悪魔を殺した、この心も。

もう僕は、人間には戻れないのかもしれない。

「おや、よく見たら氷の剣姫ではありませんか」

「数年前の合同演習ではお世話になりましたな」

「何故あなたのような方がこのようなバケモノと?」

ハネスト、この人と知り合いなんだ。

男の問いかけに、ハネストは一瞬沈黙を貫いた。

どうしたのかとハネストの方を見ると、俯いていて顔があまり見えない。

「あ、連行中ですかな?」

「だとすればお邪魔をし」

そう言いかけた瞬間、男の首元に鋭い剣が当てられた。

慌てて交戦しようとする兵士を止めると、男は少し驚いた様子で言った。

「ど、どうされましたかな」

「兵士が邪魔をしてしまったことをお怒りなら謝罪を」

すると、ハネストが聞いた事もない低い声で言葉を発した。

「あなたの国を滅ぼされたくなければ、今すぐヘルンに謝罪して」

「ん、ん?我が国を滅ぼす?」

「確かに貴方様はお強いですが、それだけの人数でなにが出来ると?」

「何が出来るかって?」

「確かに私一人では何も出来ない」

「でも、このパーティでは私は貧弱」

「フィリアやアイシーなら一人であなたの国を滅ぼすことなど容易」

ハ、ハネスト?言い過ぎじゃない?大丈夫?

「そしてヘルンならこの世界を滅ぼすことも難しいことじゃない」

ハ、ハネスト!?

「それに、ヘルンはバケモノなんかじゃない!」

「今だって、ヘルンはあなたに怒ってなんかない」

「ただ一人で、あなたみたいな畜生の言葉を心の奥に仕舞い込もうとしてる」

「ち、畜生、」

「ヘルンは自分のために怒れない」

「でも誰かのためなら本気で怒ることが出来る」

「そんなヘルンが大好きで、でも心配で」

ハネストは少し息詰まった。

雨が降らず、乾きっぱなしのはずの地面が、ハネストの足元だけが少し湿った。

それと同時に、僕の心が震えた。

「ヘルンが私たちを守ってくれるなら、私たちがヘルンを守る!」

「ハ、ハネスト殿?落ち着き下さい」

「こんな気持ちの悪い空気を纏った子供がなんだと言うので」

そう言いかけた瞬間、男の口が凍りついた。

「いいから黙れと言っているのが分からないのかしら」

アイシーがやったのか。

と思った時、今度は男が地面に力強く倒された。

「甘いぞ、アイシー」

フィリアが男の顔を掴んで地面に押付けている。

え、やりすぎじゃない?大丈夫、?それ。

「お前たち!隊長に何をする!」

「ほら、やる気みたいだぞ」

「全員ぶっ飛ばしてやる」

これはさすがにやばい。

隊長一人ならまだしも、兵士まで全員やってしまったら戦争に発展しかねない。

「みんな、もう大丈夫だよ」

「確かに心にくるものはあったけど、僕にはみんながいる」

「僕はそれだけで十分なんだ、本当のことだよ」

「ただ」

僕はエルフの兵士たちの方を見て言った。

「僕らはA級パーティ、ヘルンファミリーだ」

「僕らはA級パーティとなるための冒険者協会の全世界共通の基準を満たしている」

「A級パーティは、バシレイアで正式に国家として登録されている国への自由な出入国が認められているはずです」

「このような不当な扱いは今すぐやめて頂きたい」

「この国が、まだ独立していたいのなら、すぐに」

兵士たちは顔を見合せた。

「君たちの選択が、君たちの国の運命を、左右するんですよ」

圧力をかけるために、少しだけオーラを解放した。

「お、王の元へご案内しろ!」

副隊長らしき兵士が皆へ指示し、兵士たちは武器を下ろして僕らを囲むのをやめた。

何人かは、隊長の介抱に走った。

はあ、やっと国に入れるようだ。

ふと、ハネストの方を見ると、目を手で拭いながら必死に涙を堪えている。

僕はハネストの元に歩み寄った。

「ハネスト」

「ごめんね、勢いに任せて色んなこと言っちゃって」

ハネストは鼻をすすりながら言った。

「ううん、僕はハネストが言ってくれたことを聞いて、とても嬉しかったよ」

「あの時、ハネストと出会えて本当に良かったと改めて思った」

「さあ、僕らの旅はまだ始まったばかりなんだから」

「一緒に行こう」

「うん、私もヘルンと出会えて本当に良かった」

そう言うと、ハネストは顔を上げ、濡れた顔で笑った。

「私もつい感情的になってしまった、申し訳ない」

「私もよ」

フィリアとアイシーがこちらに来て言った。

「フィリアはもう少し加減を覚えた方がいいかもしれない」

「す、すまん...」

「へへ、でも、二人とも、僕のために真剣に怒ってくれたのは嬉しかったよ」

「ありがとう!」

二人の顔が少し赤くなった。

フィリアに関しては明らかにモジモジしている。

いや別にそんなに反省しなくてもいいんだけどな。

その時、どこかから視線を感じて周りを見渡すと、アンナがこちらをじっと見つめていた。

目が合うと、アンナはサッと目を逸らした。

どうしたんだろう。

まあ、後で聞こうかな。

「さ、みんな、この国の王様に会ってみよう」

そうして僕らは、少し待たせていた兵士たちについて行った。


歩いていくと、やがて国が見えてきた。

想像していた、木々の中に家があるといったものではなかった。

下には大きく綺麗な湖が広がり、中央に聳え立つ巨大な岩山と、そこから橋掛けられた陸地に森の近くまで建物が広がっている。

岩山は二段階になっており、下の段には街が広がり、上の段には巨大な宮殿が建っている。

家は点在しているのに、全てが繋がっているような。

これが、森の住人、神に最も近いと言われている種族の国か。


街を歩くと、所々から冷たい目線が来る。

恐らく他国からの来訪者など滅多に受け入れないのだろう。

しばらくついて行くと、橋を渡り、岩山の街に入った。

街の奥に行くほど標高が高くなっていく。

街のどこからでも、宮殿が見えるようになっている。

すると、兵士が僕らを馬車の前に案内した。

「馬車を用意させました、王宮までこれでご移動ください」

ふむ、まあこちらへの気遣いと、まだ街を歩き回られたくないという思いの結果だろうな。

ひとまず、この国の王を見てみようじゃないか。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

新たな国に訪れたヘルンたち、新たな出会い、別れ、新しいフェーズの始まり。

次の話もお楽しみに!


次話は、8月6日辺りに投稿します!

ご意見、ご感想、お待ちしております!

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