神隠しの森
時はほんの少しだけ遡り、リヒルたちの場を離れてダンジョンを出る前。
はあ〜三人とも成長しちゃって。
嬉しいけど、どこか悲しいな〜。
それにしても、階層がずれて、フロアボスは巨大化、更にはフロアボスがボス部屋の扉を破って出てくると来た。
悩むにつれて僕の歩く足が早くなる。
そうだ!
僕は魔力探知を上下の方に広げた。
普段は横に長く広げているが、ダンジョンは下に長い。
下の階層に何かあるかもしれない。
上はちゃんと九個の階層がある。
そう思った瞬間、見事に異常が見つかった。
二十階層。
明らかに二十階層にいるような敵では無い。
十階層に現れたミノタウロスは二十階層にいる魔物から逃げてきたのかもしれない。
二十階層と二十一階層ではフロアボスの強さが全然違う。
二十一階層のフロアボスが出てきた理由はまだ分からないけれど、とりあえず倒してあげるか。
二十階層まで降りると、案の定魔物たちが入口付近に集まっていた。
この程度の魔物では階段の障壁は越えられない。
ここまで必死に逃げてきたのか。
魔物を無視して先へ進んだ。
ボス部屋に近づくにつれて周りの魔力が濃くなる。
二十二階層以下の魔力探知情報から、この魔物が二十一階層のフロアボスであることはほぼ確実だが。
何らかの異変が起きているようだ。
この魔物の魔力は二十八階層程度はある。
ボス部屋につくと、扉は開きっぱなしでファイアドラゴンが暴れていた。
口にはシルバーウルフを咥えている。
ダンジョンの魔物が食い合うことなんてあるのか。
ファイアドラゴンの口元に斬撃魔法を放った。
口が緩み、解放されたシルバーウルフは全速力で逃げていった。
ダンジョンの魔物は生きていない。
だとしても、僕の心は少し傷んでいた。
ファイアドラゴンが怒った様子でこちらを睨む。
「君、暴れすぎだよ」
デスサイズの先に魔力を集中させ、限界まで魔力を凝縮する。
少しでも気を抜けば爆発してしまう。
「じゃあね」
凝縮した魔力を細い光線のようにファイアドラゴンの頭に向けて放った。
ファイアドラゴンの頭に穴が開き、その場に倒れた。
巨体の落下で地面が揺れる。
「ひとまず、これくらいにしておくか」
ダンジョンには異常がつきもの。
もし何かあればまた来ればいい。
師匠に出来ることはこれくらいかな。
「あとは、任せたよ」
この国の新たな守護者は、きっと君たちだ。
リヒルたちの修行を終えた僕は、家族を連れてウォリアスを離れた。
久しぶりの旅路に、みんなは寂しさと共に期待を膨らませていた。
「ヘルンってサッパリしてるとこがあるわよね」
道中の馬車の中で、雑談の中ハネストが切り出した。
「サッパリ?」
「ん〜なんというか、いつもはめちゃくちゃ優しいし、困ってる人を放っておけないし、お節介なんだけど」
「町や国を離れたりする時には躊躇がないというか」
「焦らさないわよね」
「確かにな、私もカリタスの時に思った」
フィリアも言った。
みんなも頷いている。
「そうかなあ」
「僕としては、その町を出ることはその町に入る前から決めていた事だから、一種の諦めなのかも」
「僕だって、そこで出会った人達と別れるのは寂しいし、その町に残りたいと思ってしまう」
「でも、僕はもっとたくさんの世界が見たい」
「色んな国、世界、人々、僕が知らないことは、まだまだ大量にあるはずだ」
「いつか、もう新しい世界を満喫出来たと思えた時、僕はみんなと、それまで行った中で一番素敵な場所に留まって」
「家族との幸せな生活を楽しみたい」
「傲慢だけど、僕は決めた」
「もう後悔なんてしない」
「もちろん上手くいかないこともたくさんあるだろうけど、それすらもいい思い出だと思えるような、そんな人生を歩みたい」
「もちろん、みんなと一緒にね」
「わ、私も!もうみんなとずっと一緒にいるって決めてる!」
ハネストが少し涙目で言い切った。
私も、私もとみんなが口々に言う。
「まあ、アンナ姉さんがここに居るなら、僕もここに居ます」
「我はヘルンのもとでこの世界を知る必要がある」
「うんうん、二人とも、一緒にこの世界を見て回ろう!」
「あ、ああ」
アンナが珍しく微笑んだ。
嬉しかったってことでいいのかな?
「それで、どこに向かってるの?」
アイシーが聞いた。
「ウォリアスの南西方向にある森だよ」
「エルフが住んでいるらしい」
「あれ?エルフはサスティナ王国に住んでるんじゃなかったの?」
ヘレナは僕とハネストと一緒にサスティナ王国に行ったことがあるもんな。
「資料によると、元々エルフはその森に住んでいて、部族が対立して二分化した片方がサスティナ王国を築いたらしいよ」
「へ〜」
「ちょ、ちょっと待って!」
ハネストが焦った様子で会話を止めた。
「どうしたの?」
「今からその森に行くって行った?」
「え、うん」
「その森は、入ると二度と出てこられないって言われて恐れられている場所だよ!」
「え」
馬車を止めようとしたその時、馬車の窓からの視界が一気に悪くなり、一瞬にして馬車は濃い霧に覆われた。
馬車を止め、慌てて降りると、一歩先も見えず、方向も分からない。
魔力探知を張り巡らせると、そこは先程まで馬車で走っていた地域ですらないようだ。
転送魔法?領域魔法?
敵襲?自然現象?
様々な可能性が頭を駆け回り、頬に汗が垂れる。
「落ち着け、ひとまず全員が離れ離れにならないように、お前の魔力をみんなの周りに流せ」
フィリアが冷静に言った。
「わ、分かった」
僕の魔力はほとんどの存在に負けない。
それでみんなを覆うことで、他者からの魔法作用を跳ね除けようということだろう。
僕はこのパーティのリーダー。
リヒルのように、トラブルが起きた時こそ僕が冷静で居なくちゃ。
みんなを魔力で包むと、一時の静寂が訪れた。
まるで何かを待たされているかのように、何も起こらない。
周りを警戒しながら待っていると突然強風が吹き、つい瞬きをした。
目を開くと窓の外は美しい草原となっていた。
周りには青々とした木々が生い茂っている。
陽の光が暖かく、異常事態にあることを忘れてしまいそうだ。
「全員馬車を降りろ!侵入者め!」
未知の怒号が、馬車の外から聞こえた。
はあ、また侵入者扱いかあ...
ここまで読んで頂きありがとうございます!
ヘルンの新たな旅路が再スタート!となった瞬間トラブル!?ヘルンの周りには異常ばかり起こるのだった...
次の話もお楽しみに!
次話は、8月1日辺りに投稿予定です!
詳しくはXをご覧下さい。
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