囚われの身
「よくぞ参られた、A級パーティ、ヘルンファミリーのものたちよ」
「エルフの住まう国、フォスト王国へようこそ」
「我はこの国の王、シュラオである」
「なにかの用で参られたのか、それとも旅の途中でしたかな?」
エルフの森の王。
白い髭を顎に蓄え、台座に優雅に座っている。
一見は優しそうなおじいさんだが、なにか内に秘めているものがありそうで、侮れない。
「少し揉めてしまってな」
「そっちの隊長殿を気絶させてしまったが、大丈夫だったかな?」
フィリアが少し高圧的な態度で言った。
少し棘がたつ言い方な気もするが、外交上、フィリアが正解のように思える。
相手は明らかに過ちを犯した。
それについて言及を避けさせれば、舐められてしまう。
一パーティと一国という比べがたい規模の話ではあるが、A級パーティはそれくらいの権力を持っている故、迂闊な行動は許されない。
「それにつきましては、うちの血気盛んな兵士たちが失礼を致しました」
「どうやら、ヘルン殿の異様な気配を感じ取ったようで」
ハネストがまた少し反応していた。
「僕は幼い頃に神の強い魔力を浴びまして、その影響で少し体内魔力に変化が起きているのです」
「ほう、興味深い」
シュラオは微かにニヤついた顔で言った。
僕は少し焦ったが、表面上には出さなかった。
この話はもちろん真っ赤な嘘だが、エルフは神に近しい種族。
神の魔力を多少なりとも感じているはず、下手な言い訳は出来ない。
あえて神を持ち出すことで、疑いを消したかった。
だが、この王はなかなか疑り深いようだ。
慎重に話さなければ、揚げ足を取られてしまう。
「まあそれはそうと、お詫びにあなた方の宿を取らせておきました」
「是非お使いください」
ウォリアスの時には断ったが、もうA級パーティだし、無理して隠れる必要も無いか。
「お心遣いに感謝します、宿は有難く使わせて頂きます」
「では、フォストをお楽しみください」
言われた宿に行くと、そこは明らかに他国の使者を泊める用に作られたような、大きくて真っ白の一つの小さな宮殿のような場所だった。
王宮のすぐ近くで、人目が多い。
もてなし以上に、監視されている気分だ。
「わ〜!大っきいね」
「フィリアお姉ちゃんのお家の方が大きかったけどね」
ヘレナとフィオナはあまり何も考えず楽しめているようだ。
それはそれで良かった。
宿に入り魔力探知をすると、建物の至る所に盗聴の魔法や監視の魔法が施されていた。
まるで牢屋のようだ。
「この家、気持ちが悪いわね」
「ああ、そうだな」
アイシーとフィリアも感じ取っているようだ。
僕の魔力を家全体に充満させると、それらはすぐに能力を失った。
気を緩めて魔力を流しただけってことにしとこ。
「この国は、僕たちをあまり歓迎はしていないようだ」
「他の国に行く?私は賛成だよ、ここの人たちはみんなヘルンに失礼だもん!」
「でも、守護神として、この森で起こっている神隠しの原因を突き止めないと」
「もしかすれば、今この瞬間も、助けを求めている人がいるかもしれない」
「たしかに...それは放っておけないね」
「うん、それが済んだら、別の国に行こう」
「わかった」
日が少しずつ暮れてきて、僕らはとりあえず今日は寝ることにした。
とは言っても、僕には用事があった。
精神会話で、フィリアにだけ伝えた。
「今日の夜、みんなが寝たら外に出て欲しい」
「したいことがある」
「了解した」
みんなが寝室で寝ていることを確認して、僕とフィリアは外に出た。
僕の要望で、僕らは宿の屋根に乗った。
「で、したいこととはなんだ」
「この国全体に魔力探知をかけて、エルフ以外の人間を見つけたい」
「神隠しは、恐らくこの国の仕業だと思うから、この国のどこかに必ず被害者がいるはずだ」
「なるほどな」
「でも、この国も中堅国とはいえ広いから、魔力探知を手伝って欲しい」
「分かったが、どうやるんだ?」
「魔力探知は発動者から円形にしか広げられないだろう」
「離れたところに行けばいいか?」
「いや、それだとむらが出る」
「魔力探知がやっていることは、結局は自分の魔力を周りに広げて、魔力の異常を感知してるだけだから」
「僕の魔力とフィリアの魔力を掛け合わせる」
「簡単に言うが、それをどうやるんだ」
「まあ、無理やり?」
「は?」
「二つの魔力をこねてれば、いずれ混ざるんじゃない?」
「・・・あのな、二つの魔力がぶつかるというのは、爆発を意味するんだぞ」
「私の魔力はお前から引き継いでいるから多少は馴染みやすいだろうが、あまりにも危険すぎる」
「まあそれは〜僕らの技量で何とかするしかないんじゃない?」
「何とかって...」
「あれ?天下のフィリア様が何を怖がってるの?」
「こ、怖がってなんかないわ!」
フィリアは目を瞑り、少しだけ考えるように動き止めた。
そして目を開くと、僕を見て言った。
「ほら!さっさと手を出せ!」
「そう来なくっちゃ!」
フィリアは手のひらを上に向けて突き出した。
僕は手のひらが合うように上に手を出した。
「いくよ、せーの!」
その掛け声で、二人は一気に魔力を手のひらから放出した。
少量なら混ざりやすいのかもしれないが、少量では魔力を掛け合わせる意味が無い。
僕らは全力に近しい魔力を注ぎ続けた。
眩い光が二人の手元から溢れ出し、周囲は明るく見えた。
魔力の衝撃波で服や髪がなびく。
僕の死神属性の黒い魔力と、フィリアの闇属性の深い紫の魔力が、ぐるぐるとかき混ぜられる。
互いに押し合い、反発し、再び合わさっていく。
段々魔力の境界線は曖昧になっていった。
それに連れて、魔力は今にも暴走しそうになり、それを抑えることに全集中力を使った。
失敗出来ない、その重大さは、フィリアの表情にも浮かび上がっていた。
これが爆発すれば、少なくともここ一帯は人も建物も何もかも吹き飛んでしまう。
まあその時は、僕が命を懸けて守ってみせるが。
そんな死への恐怖以上に、フィリアとこうして必死に何かをしているのが楽しかった。
誰かと何かに全神経を注ぐ。
そんな経験は、この世界に来てから初めて味わった。
魔力探知が急速に広がっていく。
岩山を覆い、湖を覆い、更に森まで。
目が痛む。
魔力探知は魔力に反応するだけでなく、効果範囲を視認出来る。
魔力で探知するだけでは、人間と他のものの区別が付きにくいこともある。
今回はこの広い場所から人間を見つけるという、繊細な探知。
視界も共有して探す必要がある。
だが、それにしても広すぎて、目への負担が大きい。
僕の頬に、暖かい液体が垂れてきた。
衝撃波に飛ばされるところを見ると、それは赤かった。
森の中まで探知を広げた時、森では感知しないような魔力を捉えた。
そこを見ると、地面の下の方に空間が出来ており、想像以上に多い人々が閉じ込められていた。
「見つけた!」
そう叫ぶと、僕とフィリアは魔力を解いた。
魔力探知が一気に消える。
頬を拭うと、手は血だらけだった。
「ここから北東方向の、森の中の聖堂の下だ!」
「あ、ああ、お前大丈夫か?」
「少し、目を使いすぎただけだよ、平気さ」
心配そうにするフィリアに、僕は目に手を当てて治療しながら言った。
「ならいいが...」
「二人で行くのか?」
「ん〜、」
「聖堂は結構大きいみたいだし、そこには人もいる」
「下でそんなことをしているのだから、それなりに戦闘準備はしているはずだけど...」
「探知した時には下の方にいる人達だけで、周りには誰もいなかった気がするんだよね」
「この国は元から閉鎖的なようだし、私たちの時のように侵入者は確認出来るから手薄なのだろうか」
「そうかもしれない、でも慎重に行動するに越したことはないから」
「今日は一旦ここまでにして、明日、昼に聖堂に旅人として行ってみよう」
「何かわかるかも」
「分かった、じゃあ戻ろう」
「うん、フィリアもゆっくり休んでね」
そうして僕はベッドに潜ったが、囚われている人々を想うとソワソワして眠れなかった。
みんなの安全のため、僕は自分にそう言い聞かせ、再び目を閉じた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
聖なるエルフの森。その裏に隠れた深い闇。
ヘルンは最強に見えて弱点も多いが、一番の弱点は、その優しい心なのかもしれない。
次の話もお楽しみに!
次話は、8月10日辺りに投稿します!
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