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深淵の監獄

前も見えないほどの強風が収まり、周りの熱が空気に逃げ出した。

アイスドラゴンが灰と化し、ダンジョンはようやく静寂に包まれた。

四十四階層より下位層の魔物は暴走していないらしい。

ここは二十階層のボス部屋、後は原因を求めて下っていくだけだ。

「師匠、行きましょう」

「ああ」

風を切って走っていると、また突然、師匠が立ち止まった。

再び強風が身を包み、ローブが揺れた。

あまりの衝撃に、僕は膝に手をついた。

「だから師匠、急に止まったら衝撃波g」

「引き返すぞ」

「え?」

僕は顔を上げ、師匠の顔を覗いた。

何かを感じ取ったような顔をしていた。

僕の体は、勝手に動いていた。

師匠が引き返すと言って一秒後には、僕たちは転移魔法を展開していた。

引き返すということは、それは恐らく“危険”なのだろう。

それならば、なるべく早く、ここを離れるのが最善策だ。

転移魔法陣が高速で描かれ、今にも発動しようとしたその時、魔力で描かれた転移魔法陣が砕けた。

師匠の魔法陣も砕けたようだった。

「これは、何が起きているんですか!」

「恐らく、私たちは閉じ込められた」

「閉じ込め...一体誰が」

確かに、頭上から凄まじい魔力を感じる。

「わからないが、ここより上の階を私たちにも破れないほどの魔力で塞がれている」

「そんなこと、可能なんですか?」

「非常に難しいが、出来ない訳でもない」

「最終的な魔力量と魔力密度で私たちに勝てる者など居ないと言って過言ではないが」

「一時的に私たちを閉じ込めるくらいであれば、私たちより格下の者でも魔力を溜め続ければ出来なくはない」

「つまり、この結界はいつか壊れるってことですか?」

「そうだ、それに、その間私たちに危害を加えるほどの魔力は残っていないだろう」

「それにしても、こんな魔力量、一体何者なんでしょう」

その時、師匠が上階の結界に攻撃魔法を放った。

「やはりか」

「何がですか?」

「私の魔法が当たった時、結界の魔力量が一瞬だけ増えた」

「恐らく、壊れないように結界を自動で強化したのだろう」

「これがどういうことかわかるか?」

魔力量が増えるということは、それだけ発動者の負担が大きくなる...

「攻撃を与え続ければ、結界が早く壊れる!」

「正解だ」

「分かったら、始めよう」

「はい!」

僕はデスサイズを構えた。

すると、師匠がそれを止めた。

「高火力な魔法はやめておけ」

「いくら早くなると言っても、長期戦になるのは確かだ」

「自分の回復が間に合う程度の魔法にしておけ」

「分かりました」

やはり、師匠は僕の一歩先を常に考えている。

僕と師匠は、適度な魔力を放出し続けた。

頭上の結界がそれに対抗して、魔力量が増えたことは明らかだった。

体力をあまり消費しないように、僕たちはその階のボス部屋まで行き、隅に座った。

暇だった。

久しぶりの、二人だけの空間。

「師匠、そんなに魔力を流して大丈夫なんですか?」

師匠は、僕の倍以上の魔力を放出していた。

師匠の魔力量は僕より多いが、それでもきついはずだ。

「ああ、大丈夫だ」

「子供は親の心配なんてしなくていい」

「でも...」

「いいから、座ってゆっくりしておけ」

僕の頭を撫でながら、師匠は優しく言った。

「お前は頑張りすぎだ」

「この世界を楽しみたいと言って国王をやめたくせに、こんなところでまた人助けをしているとは」

「お前は本当に、誇れる弟子だな」

その時、僕の目には師匠が母親に見えていた。

この人から生まれた訳でもない、この人と本当の親より長く居た訳でもない、本当の親が嫌いな訳でもない。

でも、今の自分の親は、間違いなく師匠だった。

「師匠、僕、師匠に引き取って」

話しながら師匠の顔を見ると、師匠は目を瞑って眠っていた。

魔力の放出量は変わっていない、体力が起きているには少なすぎたのだろう。

師匠はいつも無理をする。

師匠の頬に触れ、体内の魔力量を測った。

眠ることで、放出量と回復量が同程度になったようだ。

僕も放出魔力を増やすか考えたが、二人とも気を失っている時に何かあってもいけないと思い、今のまま待つことにした。

周囲を歩き回ったり、床をコロコロ転がったりしていても、なかなか時間は流れなかった。

暇すぎて、寝ている師匠と親子ごっこをしていたことは、内緒...


「おい、ヘルン」

「起きるんだ、結界が破れたぞ」

暗闇の中で、師匠の声が聞こえた。

目を開くと、師匠が目の前にいた。

「あれ、僕いつの間に」

「頑張って起きていたようだが、しばらくして、魔力消費に疲れて眠っていたのだ」

「なるほど...ごめんなさい...」

・・・

え、なんで師匠はそれを知っているんだ?寝ていたはずじゃ...

「し、師匠、あの...」

「しかし、お前もまだ親に甘えたい年頃だったとはな、また一緒に住むか?」

あ、終わった...

「な、なんで知ってるんですか?」

「私が、そう簡単に気を失って無防備になると思ったのか?」

「体は眠っていても、周りの状況くらい常に確認している」

「お前が頑張って起きていたから、起きようか悩んだが」

「お前がなにやら可愛いことをし出したからな、見ていたのだ」

師匠は少しニヤつきながら言った。

僕の方は真っ赤に染まり、目線はずっと下を向いていた。

「これからどうするんですか!」

僕は全力で話を変えた。

その心を見透かしているかのように、師匠は再びニヤついた。

「出口を目指す」

「異常の原因は、良いんですか?」

「魔力探知をしてみろ」

言われた通りに魔力探知をすると、今まで感じていた下位層からの強大な魔力が消えていた。

「これはどういうことですか?」

「今回の異常の原因は、ダンジョンの崩壊によるものだ」

「ダンジョンの崩壊...?」

「ああ、ダンジョンには寿命がある」

「お前が言っていた神族の上位種の魔力に刺激されて、寿命が少し早まったのだろう」

「なるほど...」

ダンジョン崩壊かあ、ウォリアスは大丈夫なのかな。

ダンジョン崩壊...

え、ここってダンジョンだよね。

その時、頭上から石が転がった。

徐々にポロポロと落ち出し、ダンジョンが微弱に揺れ始めた。

「え、壊れてます?これ」

「ああ」

師匠は何故か笑顔で答えた。

「早く出ましょうよ!!!」

「まあまあそんなに焦るなって〜」

「いや、閉じ込められるじゃないですか!」

「まあそれもそれでいいでは無いか〜」

「良くないです!」

僕は師匠の手を引っ張って、思いっきり地面を蹴った。

全力で飛んでいても、通った場所がどんどん崩れていっていた。

上から落ちてくる岩を避けながら、出口を目指す。

やっとの思いで、僕たちは出口から飛び出した。

師匠を地面に降ろすと、僕は地面に横たわった。

「は〜よかったあー!」

「焦りすぎだぞ」

「だって、また閉じ込められそうだったじゃないですか」

「いや、結界はもう破れていたから、普通に転移魔法使えたぞ」

「あ...」

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

さすがおっちょこちょい親子...

次の話もお楽しみに!


次話は、5月27日に投稿します!

ご意見、ご感想、お待ちしております!

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