最強の親子
ダンジョンの奥深くから一瞬だけ伝わってきた絶大な魔力。
アンナの時に相当する恐怖。
世界は、想定外のことばかりだ。
バシレイアに限らず、異常の多発は歴史上何度か起こっている。
師匠が死神として働き出した時も、異常が多発したそうだ。
しかし、悪魔王も歴代最強、アンナという神族の上位存在の誕生、そして、それを凌駕するほどのダンジョンの謎の異常。
流石に大きなこと起こりすぎである。
一度、師匠を呼んだ方が良いかもしれない。
僕はまだ、師匠から完全な自立をすることは難しいようだ。
「久しぶりだなー!ヘルンー!」
呼んでから数秒、時空を切り裂いて、師匠が僕に飛びついてきた。
「お久しぶりです、師匠」
「なんだ〜?そろそろ私に会いたくなる時期だとは思っていたが〜」
「お前が魔導国の国主をやめてから音沙汰なかったから心配したんだぞ〜」
「しかし、まさか自分から呼び出してくるとはな〜」
「またアナパウシスにでも行くか〜?」
「いえ師匠、あっちを見てください」
「僕はダンジョンの入口を指さした」
「ここは...ウォリアスの中央ダンジョンか!」
「懐かしいな〜久しぶりに来た」
「ここがどうしたんだ?」
「実は、ダンジョンが暴走しまして」
「お〜また暴走したのか〜」
「まあ、お前なら寝てても制圧できるだろう」
「魔物たちはそうなんですけど、ダンジョンの奥の方から強力な魔力を感じまして」
「少し前に神族の上位存在と思われる種族をここで保護したので、なんだか嫌な予感がしたので」
「それで、私を呼んだということか」
「はい」
「ふむ...ならまあ、行こうか」
「どこにですか?」
「え、ダンジョンだが」
え?もう探索するの?早くない?
「な、何かここで調べたりとかしなくて大丈夫なんですか?」
「まあ〜大丈夫だろう!」
軽っ。
「ここには歴代最強の死神二人が揃っているんだ!」
「私たちで勝てないならもはや誰も勝てないのだ!」
「ならば行くしかない!」
・・・何言ってるんだこの人...
呆然と立ちすくんでいたら、抵抗する間もなく僕はダンジョンに引っ張られていった。
ほぼ引きずられていた。
歩きながら僕に話しかけて片手で魔物を消し去っている。
相変わらず忙しい人だ。
「ん〜これはなかなか長くなりそうだな」
「そうですね、少し前に二十階層まで行ったばっかりですから、それより深いところかも」
「なるほどな」
「あの頃はあんまり深くまでは行けなかったが」
「せっかくだし五十階層くらいまで行っちゃうか!」
「え?」
なんで?
まあそりゃ、そこまで原因が見つからなかったらそうなるかもしれないけど、歴代で一番深く潜った人が四十四階層って聞きましたけど...
口ぶり的に、師匠は一回はこのダンジョンに潜ったことがるはず。
ん?ということは?
「歴史上一番深く潜ったと言われている四十四階層の記録を打ち出したのって、まさか...」
「そうだそうだ!四十四階まで行ったんだったな、ならまあ今は五十くらいまで行けるだろ」
やっぱりか...
師匠は至る所で名をとどろかせてたんだな。
僕は改めて師匠の偉大さと身軽さに感嘆した。
でも、それは同時に嬉しい情報でもあった。
師匠が四十四階層まで行ったのなら、その頃よりさらに強くなっている師匠と僕なら五十階層くらいまでは行けるだろう。
原因をどうにかするには、そもそも原因を見つけなければ話にならない。
より深く潜れるという情報は、今の僕にとってはタイムリーな朗報だった。
僕は、師匠に引きずられていたのを自分から歩き出した。
「久しぶりに、二人で頑張りますか」
「おう、ついてこい!」
そう言うと、師匠は爆速で走り出した。
それでもちゃんと魔物を倒していく師匠は、やはり、いつでも僕の憧れだった。
いつも、師匠は僕の見えないところでも僕の前を走ってくれていたのだろう。
だから、僕はここまでやってこられたのかもしれない。
「待ってくださーい!」
そう叫び、僕も走り出した。
しばらくすると、僕が少し前にたどり着いた、二十階層まで来た。
まだ魔物でパンパンだったが、明らかに二十階層の魔物ではなかった。
アンナの時に倒した魔物より格段に強い。
まあ、僕たちの相手ではないけれど。
恐らく、三十階層辺りの魔物も既に登って来ているのだろう。
にしても...
「なんで、他種族の魔物が喧嘩もせず並んで登ってきてるんですかね」
普通は、魔物同士でも種族、なんならグループが違うだけでも争いが起きる。
なのに、ここの魔物はそのような傾向が一切見られない。
ダンジョンの魔物の特性なのだろうか、それとも何かしらに操られているのか。
どちらにしろ、早くこの異常の原因を突き止める必要がある。
「おいヘルン、あれを見ろ」
突然師匠が足を止め、その衝撃波で目の前の魔物が吹っ飛んだ。
それに驚きながら師匠の指差す方を見ると、アイスドラゴンが、居た。
え、怖。
アイスドラゴンは常人なら近づくだけで全身が凍りつく、魔物の最上位に位置する存在だ。
龍族は神族に次ぐ力の持ち主。
簡単に倒せる相手ではない。
「こいつだ」
師匠が言った。
「こいつが、四十四階層のボスだ」
「つまり、今四十四階層の魔物がここまで登ってきているということだ」
「なるほど」
「そして、あれを見ろ」
「師匠は龍の背中を指差した」
龍の鱗肌の中に、黒くなっている鱗が何個もあった。
「強力な魔力に当てられた時に見られる症状だ」
「つまり...」
「ああ、恐らく、この異常の原因は四十四階層辺りにあるのだろう」
「じゃあ、行きましょう!」
「まあ待て、まずはこいつを倒してからだ」
「あ、確かに」
「こいつは相当魔力を吸ってるぞ」
「勝てますかね」
「勝てるに決まっているだろう、私たちは最強の親子だ」
こちらの殺意に気がついたのか、アイスドラゴンがこちらを向き、すぐに氷のブレスを吐いた。
周囲の魔物すら一瞬で凍りつき、ダンジョンの壁や天井さえも氷で覆われた。
「やる気満々だな〜」
「ちょっと、楽しまないでくださいよ」
「分かっている」
「本当は久しぶりの親子の共同作業を楽しみたいところだが」
「今は時間が無いんでな」
「一発で終わらせよう」
「ヘルン、いけるよな」
師匠から突然投げられた難題。
これは、僕が今、師匠と並んで戦うことが許された証である。
僕はそれが、たまらなく嬉しかった。
「はい!」
僕と師匠は、打ち合わせもせずに互いのデスサイズの先を合わせた。
二人がその一点に魔力を注いでいく。
その魔力の急増に気づいたのか、アイスドラゴンがまた氷のブレスの準備をした。
だが、それはもう、遅かった。
死神の歴史上最強のふたりが揃った時、アイスドラゴンはとてつもない業火に焚かれた。
空間中の氷がとけ、水蒸気となり強風をもたらした。
二人のローブの靡きが収まった時、その場には何も無かった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
日曜日、投稿出来ずすみませんでした。
アイスドラゴン、一瞬だった...
これが、史上最強親子の実力。
次の話は、5月17日に投稿します!
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