ダンジョン暴走
突然部屋に押しかけてきた会長は、呼吸を荒げながら言った。
「ヘルン、今すぐ来てくれ!」
「何かあったんですか?」
「ダンジョンが暴走した!詳しいことは現地で話す」
「とりあえず仲間を連れて一刻も早く中央ダンジョンへ向かってくれ!」
運良くその時はみんなが揃っていたため、僕たちはすぐに中央ダンジョンの入口付近まで転移した。
すると、そこでは大勢の冒険者と魔物が戦っていた。
多くの魔物の死体と、浅い傷ながらも大分消耗している冒険者たちで溢れている。
「アナスタシス」「ファイアアロー」
周囲の人々には最上級の治癒が施され、暴れ回る無数の魔物たちには燃え盛る矢が降り注いだ。
ダンジョンの入口周辺が掘られて街より低い位置に作られていることに納得がいった。
恐らく、ダンジョンの暴走は初めてではないのだろう。
冒険者たちがこちらを一斉に見た。
何が起きたのか分からないといった様子だ。
「ヘルンファミリーが到着しました!」
「皆さん、とりあえずここを上がってお休み下さい!」
「しばらくはヘルンファミリーがこの場を引き受けます!」
出せるだけの大声で言った。
アナスタシスは最上級の治癒魔法、もちろん疲れも癒すことが出来る。
しかし、心の疲れまでは癒せない。
長時間の戦闘は精神力を削られる。
ひとまずの休憩が必要だ。
「大丈夫なのか!」
「お前たちだけではきついだろう!」
僕らはあくまで新参パーティ、そりゃそうなるよね。
その時、フィリアが低い声で言った。
「早く上がれ、邪魔だ」
その姿はかつての最強の悪魔王を彷彿とさせる、恐ろしいものだった。
こわ。
流石の圧力に冒険者たちも何も言い返せず、その場から僕ら以外の人間が消えた。
ダンジョンの入口からは延々と魔物が出てくる。
どれも低級なようだが、数が多い。
状況がよく分からない以上、無闇にダンジョンへ突入するのは悪手だ。
ダンジョンの膨大な魔力は、僕を覆えるほどのもの、一歩間違えれば死にかねない。
溢れて来る魔物を倒し続けしばらくした時、出てくる魔物のレベルが少しずつ上がりだした。
最初はスライムやゴブリンばかりだったのが、いつの間にかゴブリンアーチャーやブラックウルフが混ざり出した。
段々下の階層の魔物が出てきているということか。
でも一体、何が目的で...
僕は一度、同じような状況に遭遇した。
言うまでもなく、ちょっと前まで潜っていたダンジョンでだ。
あの時は、アンナの魔力に魔物たちが引き寄せられていたが、今はアンナも魔力を抑えてる。
一体何が原因なのだろうか。
「もう、ダンジョンを破壊してしまえばいいのではないか?」
イライラしだしていたフィリアが言った。
「それはダメだ、中央ダンジョンはウォリアスの貴重な収入源だし、何よりダンジョンの破壊なんて、何が起こるかわからない」
「リスクが大きすぎる」
「ふむ...たしかにな...」
「では、どうするというのだ」
うーん、そう言われると僕も困るんだよな...
原因が分かれば早いんだけど、そう簡単には行かないよね...
んー、でも、段々深い階層の魔物が出てきているということは、この暴走には終わりがあるということだ。
最後の魔物まで出てきてしまえば、この暴走は収まるはずだ。
だが、問題はこのダンジョンの名前にある。
無限の迷宮、まだ最深階層が見つかっていない。
もし、本当に終わりがないとしたら、この暴走はダンジョンの魔力が尽きるまで続くことになる。
もう一つの希望は、ある一定の階層までしか地上に出てこない可能性だ。
そうだとしたら、出てきた魔物をただ倒していればいい。
どちらにせよ、今できることはただひたすらに溢れ出る魔物を倒すことだ。
「今はとにかく、出てくる魔物を倒すしかない」
「それで様子を見て、ダンジョンに突入するかどうかを決めよう」
「うむ...分かった」
フィリアはこういう戦闘が苦手、というか嫌いだ。
強い相手と戦うことにこだわっている。
アンナの方が、意外と素直に魔物を倒してくれていた。
会ってまだ全然経っていないが、既に力加減を覚えだしたようで、周りにも大した影響が出ていない。
「長期戦になりそうだし、ローテーションを決めよう」
「僕、フィリア、アンナ、アイシーは一人ずつ、ヘレナとフィオナ、ハネストとクロで二人ずつね」
「では、最初は私がやろう」
「まだ体力が残っているからな」
「分かった、じゃあみんなは一回宿に戻って休もう」
「敵はどんどん強くなるからね、みんなちゃんと休んでおくように!」
宿に戻り、ダンジョンの異常の様々な原因を考え始めた。
しばらく考え込んで、何個かの可能性は思い浮かんだ。
何者かによる作為、単なる自然現象、魔力の乱れ、新たな異常の前触れ、しかしそのどれもが空想上のものに過ぎず、解決に役立つことは思いつかなかった。
フィリアの後、ヘレナたち、ハネストたち、アンナ、アイシーの順に魔物を狩り続けていた。
「そろそろ行くかあー」
ダンジョンの入口の方へ向かうと、再び魔物で溢れかえっていた。
「大丈夫か!?」
そう心配したのも束の間、見渡すと、氷の椅子に座ってゆっくり本を読むアイシーが居た。
周囲の魔物だけ氷の守護兵が狩り続けている。
「アイシー!大丈夫ー?」
「あらヘルン、早いわね」
アイシーはそう言いながら、手で空をサッと切った。
その瞬間、その場にいた魔物が一斉に真っ二つになり、消滅した。
「お、おお...」
「魔物たちは、狩っても狩らなくても出てくる速さは変わらないって気づいてね、それならまとめてやった方がいいと思って」
「なるほど...参考になったよ」
「ならいいわ、ゆっくり本を読めたし、次の番まで少し休むわね」
「うん、お疲れ様」
アイシーが立ち去ったのを見て、僕はダンジョンの方に向き直した。
さて、今出てきている魔物は何階層くらいの魔物なのかな。
うむ...最初よりは強くなってる気がするけど、そういえば僕普通のダンジョン潜ったことないんだった...
何階層くらいなのか全く分からない。
しかし少なくとも、探知魔法で感知できる範囲の階層には魔物がぎっしりと詰まっている。
はあ、骨が折れるな...まあ折れないけど。
その時、ほんの一瞬だけ、凄まじい魔力を感じた。
僕の生存本能が反応してしまうほどの、絶大な魔力。
周りの静けさが嘘に感じるような恐怖を覚えた。
ダンジョンの奥底で、何が起こっているのか...
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
ダンジョンの奥底から伝わってきた謎の魔力、ダンジョンの異常の原因とは!
次の話もお楽しみに!
次話は、5月10日に投稿します!
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