ヘルンの放浪日記:1
暇だ〜...
暇って素晴らしい...
守護神だった時は何かしら用事があったからなあ...
ハネストとヘレナとフィオナは買い出しに行ったし。
アイシーとフィリアは新しい魔法の練習に草原に行ったし。
クロは森の管理をしに行った。
多分森で走り回るのが好きなのだろう。
一人になるのは久しぶりだな。
望んでた平穏な日々だけど、いざ暇になると何をすればいいか分からなくなるなあ...
そういえば守護神を実質的に辞める時師匠に言ってないよな...
ハデス様から既に聞いてるだろうけど、怒ってるかなあ。
まあ完全に辞めたわけじゃないし、元からこの世界を見て回りたいとは言ってたから大丈夫だと思うけど。
今度また会いに行かないとなあ。
でもまあ今日は、ゆっくり過ごそ...
朝起きて僕は、ベッドから立ち上がらずにそのまま仰向けで寝転がった。
眠たいわけではないが、目をつぶる。
空を舞う小鳥の声、宿の近くを歩く人々の何気ない会話、窓から注ぐ暖かい光、そのどれもが心地よかった。
「世界が、僕を愛してくれている...」
本気でそう感じてしまう程に、僕は自由だった。
にしても暇だった僕は、部屋の掃除をしだした。
一人で掃除だなんて、師匠の家にいた頃以来だな〜。
そう思いながら机を拭いていた時、部屋のドアが雑に叩かれた。
この宿はそれなりに大きいが、部屋が大きいため同じ階には三部屋しかない。
つまりこの階に用があるのはうちの人たちだけ。
ドアの叩き方からみてあの優しい宿主なんでもない。
誰なのだろう。
そう思いながらはーいと返事をし、ドアを開けた。
「お前がヘルンファミリーのリーダーか?」
目の前にはいかつい男が三人...
既に面倒事の匂いがぷんぷんする。
「は、はい、そうですけど...」
「歴代最速でB級になったらしいなあ」
「ま、まあ...」
「調子に乗ってるだろうから締めに来てやったんだよ」
「ちょっと路地裏行くぞごら」
「はあ...」
僕が部屋を掃除すると僕に敵対する人が来るらしい。
仕方なくついて行き、怖い人たちをペチペチして部屋に戻った。
体力は何ともないが心が疲れたため、掃除をやめてソファに倒れた。
また暇な時間が始まった。
するとすぐにまた扉が叩かれた。
嫌な予感しかしない。
でもまあ大事な用事かもしれないし、流石に一日に二回も揉め事は起きないでしょ。
そう自分に言い聞かせ、扉を開けた。
男が四人...
「お前がヘルンファミ」
バタンッ!
反射的に扉を閉じてしまった。
ドアが強く叩かれる。
仕方なく開けると、男たちの中の一人が話を続けた。
「閉めるんじゃねえよ、お前がヘルンファミリーのリーダーだろ?」
「まあ、はい」
「なら俺たちが力を確かめてやるよ」
バタンッ!
今回は反射でもなんでもなく閉じたくて閉じた。
男たちはバンバンと扉を叩きながら、開けろと怒鳴った。
「開けろ!ほら早くしろや!」
「やめてください、B級の昇格試験にこんなのがあるなんて聞いてないです...」
僕は泣きそうなりながら頼んだが、男たちは僕を路地裏に引っ張った。
とんでもなくイラついた僕は、ビシバシと男たちに力の差を教え、部屋に戻った。
「部屋にいても誰か来るだけだし、散歩しに行こう!」
それが、僕が暇を楽しむための唯一の方法に思えた。
まだウォリアスをあまり見回れていなかったので、都合も良かった。
商店街を歩くと、美味しそうな焼き料理を売っている店が何軒かあり、少量ずつ買って楽しんだ。
個人的には串焼きが一番美味しい。
街ゆく人は皆顔に笑顔が染み付いている。
自由が好きな冒険者が集まった結果だろう。
少し歩くと広場へと出た。
中央に大樹があり、その周りにベンチが置かれている。
小鳥が飛び交い、風で葉が揺れる。
それは、平和そのものだった。
キャー!
僕が目をつぶって空を仰いでいた時、後方辺りから女性の叫び声が聞こえた。
驚いてそちらを見ると、二人の男が剣を抜いて争っている。
剣を振り回すその様は、冒険者の名を汚していることに他ならなかった。
本当はどこかへ離れたいけれど、見過ごす訳にもいかないよな...はあ...
近くにより、二人の前まで行こうとすると、野次馬に止められた。
「お前、それ以上出ると危ねぇぞ」
「大丈夫ですよ」
僕の腕を掴む手を優しく剥がし、前へ出た。
「あの、お二人さん?」
「剣術の練習は競技場でしましょうね」
子供の出しゃばった行為を、野次馬たちはやや心配そうに見つめた。
「なんだてめえ」
「ヘルンファミリーのリーダーのヘルンです」
「お前が噂のガキか」
「少し早くB級になったからって調子に乗りやがって」
「ガキはすっこんでろ」
イラッとはしたが、僕は大人だ。
こんな挑発にそう簡単に乗るはずがない。
喧嘩さえやめてくれればそれでいいのだ。
「女を引き連れてるらしいな」
「そいつらを紹介してくれれば見逃してやるぜ」
僕は怒らない、怒らない、こんな弱い人間相手に怒るはずがない、僕は神なんだ。
怒らない、怒らない。
「お前...なにもんなんだ...」
男二人を地面にねじ伏せ、僕は顔を隠しながら走り去った。
ああ、名乗らなければよかった...
もう、なんて日だ!!!
その後も、ひっくり返った馬車を元に戻したり、泥棒を追いかけたり、迷子の親を探したりと、何かと忙しい日となった。
どれも仕方ないことではあるが、決して気ままで落ち着いた時間ではなかった。
早くA級に上がらないといけないからなかなか休日とかないし...
それもそれで楽しいけど、一日くらいぼーっと頭を空にする日が欲しかったな...
少し日が暮れかけた街を、独りとぼとぼと歩く。
その時、幼い男の子の声がした。
「あ!あの時のお兄ちゃん!」
俯いていた顔を上げると、この前輩から助けた少年が、母親と手を繋ぎながら走り寄ってきた。
「お兄ちゃん!あの時は助けてくれてありがとう!」
「いいんだよ、無事でよかった」
「あなたが息子を助けてくれたんですね」
「息子を届けてすぐ帰ってしまったから、ろくなお礼もできず」
「いえいえそんな、大した仕事でも無かったので」
「息子さんを一人で危ないところに行かないようにしてあげてください」
「はい、ありがとうございました」
「あの時のお兄ちゃんかっこよかったよ!」
「ありがとう、一人で路地裏に入らないようにするんだよ」
「分かった!」
「では」
そう言い宿の方向を向き直すと、なんだか心がホッコリとした。
背後から少年の声が聞こえる。
人助けが出来て良かった。
僕が求めていた平和ではなかったかもしれないけど、今日も良い日だったのかもしれないな。
宿へ戻る僕の足取りは、少し軽やかになったのだった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
放浪旅のヘルン日記。これからもちょくちょく出します!
次の話もお楽しみに!
次話は、4月12日に投稿します!
ご意見、ご感想、お待ちしております!




